[第22回]

住宅型有料老人ホームぶどうの家花帽子

介護職員・貞光正和(35歳)


ー2025年1月30日ー

はじめに

 

入社して8年が経過した貞光。今回の対談、喫煙者の悲哀が滲みでる形となった。
そこまで拘るか? 聴きながら思ったが、喫煙者にとっては厳しい時代なのだろう?

津田「この対談、以前のを読んでくれた?」

 

貞光「いえ、目を通してないんです」

 

津田「対談最中、野田さんが写真も撮ります。で、私の質問に答えて欲しいんだけど、私や会社に希望することなどあれば言ってください。
私が、スタッフたちのことを知りたいから。いろいろあると思うけど、それを言って会社や私からの評価に影響することもないし、私が後々、貞光くんに意地悪することもないからね」(笑)

 

貞光「了解しました」

|喫煙場所を設置して欲しい

津田「じゃあ最初に。なにか要望はあるかなあ?」

 

貞光「うーん?」(頭に手を当てかなり悩んでいる様子。数秒経過)

 

貞光「ざっくばらんに言います。正直に言います。喫煙所を作って欲しいです」

 

津田「それはダメだね。でも、喫煙所が欲しい?」(二人で爆笑)

 

貞光「欲しいっすね。自分の勤務が、昼の12時から21時までの通ししかないので、休憩のときに欲しいなあ! って」

 

津田「あのさあ? 煙草って吸わないとどうなるん?」

 

貞光「どうなる? どうにもならんと思います。ただ、勤務場所のここから一歩出るという気持ちがですね…ちょっと」

 

津田「出れば良いじゃん?」

 

貞光「そうなんですけど。出るついでに、みたいな……」

 

津田「どっちが目的なん? 煙草と出るのと?」

 

貞光「両方ですけど、基本、煙草ですね。以前は、そこで吸ってたんですけどね」

 

津田「煙草を吸わないと、どうなるん?」

 

貞光「どうなる?(ここでも考え込む) そう言われると、どうにもならないような? 変わらないかもしれないですね……」(津田が大爆笑)

 

津田「例えばお酒。アルコール依存症の人って手が震えてきたりとかさあ、何か症状が出てくるじゃない? 煙草も、そんな症状が出ることはあるのかなあ?」

 

貞光「吸いたいなあ? という願望が湧き出てくることはありますね」

 

津田「それだけ? 例えば、私がお腹空いたら『お腹空いたなあ。ご飯食べたいなあ!』って思うじゃない」

 

貞光「そんな感じですかねえ? ただ、イライラしてちょっと気分転換に。みたいな」

 

津田「あっ、そうなんじゃ。お腹が空いたときのような感じ?」

 

貞光「そうですね」

 

津田「じゃあ、私等が『お腹空いたなあ! でも、今日は忙しいなあ。忙し過ぎて気がついたらご飯を食べてなかった』みたいな?」

 

貞光「そんな感じです」

 

津田「なるほど」

 

貞光「ご飯と煙草。一緒ではないですけど、気分が楽になった感はあるんです」

 

津田「ご飯と煙草となると、どっち?」

 

貞光「自分、考えたことあるんですよ。24時間、ご飯なしの煙草ありはキツイです。でも、9時間なら飯抜きの煙草を優先しますね」

 

津田「なるほどねー」(感心するかのように納得)

 

@なにやら、ここでお互い一服感。言葉が途切れる。

|禁煙になった発端

津田「なかなかさあ、分かってあげられんからね。煙草を吸う快さ。吸わないときのイライラ感とかをね。体験したことがないだけに。でも、なんで煙草がダメになったかは知ってる?」

 

貞光「もちろん知ってます。僕らがルールを守らなかったからですよね」

 

津田「だよね。前は煙草を吸えてたんだけど、煙草を吸うときのルールがあったんよな? だけど、ルールが守れなかったからアウトに」

 

貞光「ですです。自分等が悪いんです。正直な話」(貞光は苦笑い 津田は爆笑)

 

野田→貞光「つまり、貞光さんもルール違反をしてた?」

 

貞光「そうなんです」

 

津田「そうなんよな。でも、あれを機会に、禁煙できたら良いなあ! と私は思ってるけど、そういうレベルじゃないんよな?」

 

貞光「禁煙は、多分できないっす。酔ってる最中の人に『酒は止めなさい』と言っても無理だと思います。
勤務中だから飲まないけど、帰宅してからとか休みの日は普通に飲んじゃうでしょ。
それと同様な感じです。ただ、アルコールは飲酒後も残るじゃないですか。でも、煙草は残らないですから」

 

津田「えっ!! でも、残ってるから禁断症状が出るんじやないの?」

 

貞光「うーーん」(またまた考え込む)

 

津田「例えば、吸ってる3秒とか5秒だけが、煙草の効果があって……残ってるじゃないニコチンとか?」

 

貞光「多分、残ってることは残ってるんでしょうけど……どうも、打ち負かされてしまいますね」(二人で大爆笑)

 

津田「私自身が煙草が嫌いというのも大きいけど、皆が煙草を止めたら良いのにな! と思う理由は、母が肺癌やってて祖父も肺癌をやってて癌家系。で、副流煙とかの因果関係も怖いけど、皆が煙草を辞めたら、この国はもっと穏やかに和やかになるだろうなと想像するの。
だからといって、煙草を吸う人が絶対ダメだとか言うんじゃないけど……難しいね。ところで、喫煙所以外には?」

 

貞光「それくらいかなあ?」

 

津田「えっ! 煙草も大事だけど、もっと確信を突いた要望はないのかな?」

 

@ここでも貞光は考え込む。数分、いろいろと言葉が出てくるが、進捗はない。

 

貞光「ないですね」

|貞光くんはときどき怒ってる

野田→貞光「ない。ということは、仕事そのものは楽しいんですね?」

 

貞光「ですかねー?」

 

津田「貞光くんはときどき怒ってるけど、基本、楽しそうにやってる風に見える」

 

貞光「怒ってますかね?」

 

津田「皆、私がなにも見てないだろうって思ってるみたいだけど、結構わかるんよなあ! なぜか」

 

貞光「雰囲気的にってことですか? 自分はモロに出やすいタイプなんで」

 

津田「そうだね」

 

野田→貞光「どういうときに怒るんですか?」

 

貞光「どういうとき? うーむ? 自分勝手な言い方になっちゃうんですけど、『これしたいのにこれ出来ない』とか『こう動いて欲しいのに動いてくれない』とか」

 

野田「それは利用者さん? 職員?」

 

津田「職員が、です」

 

津田「貞光くんは基本、優しい。凄く優しい。だから、やりたいことがあるんよね? 
利用者さんに、こうしてあげたいとかの思いがあるから。
でも、それがなかなか、いろんな事情で出来ないとなると腹が立つ。そういうのあるよね?」

 

貞光「自分は時間で動く人間なんで『この時間にこれをしたい』というのが一番にあるんですよね」

 

野田→貞光「やりたいことになりますが、職員のどなたかが言われてましたけど、利用者さんの故郷へ一緒にお墓参りへ行きたい、と」

 

貞光「自分はないです。自分の家族ならそういうのもありなんでしょうけど、利用者さんとなると事故も心配になります。となると、報告も文書で上げないといけません。
それを考えるとね。家族なら事故報告書なんか必要ないですから。自分、説明も下手だし文章を書くのも苦手なんです」

 

津田「伝えられない?」

 

貞光「そうなんですよ。焦っちゃいます」

|“ぶどうの家”へ来た切っ掛け

津田「前に勤めていたのはグループホームだっけ?」

 

貞光「いえ、小規模多機能でした」

 

津田「で、そこを辞めてここへ。思っていた介護ができなかったから? 転職のきっかけは?」

 

貞光「お恥ずかしい話ですけど… 勤務中、上司が来られて『貞光くんポケットの中を見せて?』って言われて『持ってるよね?』とも言われ、煙草と携帯とを出しました。

煙草を吸うことはOKだったんですが、現場にいるときはロッカーに入れておく決まりがあったらしいんです。『らしい』って言うのも変なんですが、知りませんでした。初耳だったんです。それで、自分の中で『もういいや』となってしまいました。ただ、この月のシフトは決まっていたので勤めて、次月を前に退職したんです」

 

津田「へー!! そうなんじゃ。短気じゃなあ! だけど、そこで『そんな事情は聞いてませんでした』とはならんかった?」

 

貞光「多分、反省文を書け。とかなるんでしょうし、自分、そういうの嫌でしたから、そのまま…」

 

津田「自分で思ってることとかを伝えるのが難しいのかな?」

 

貞光「説明するのも億劫だし、直ぐに諦めるタイプなんで」

 

津田「でも、とことん優しいけん貞光くん。利用者さんの為にと思ったら、そんな簡単に諦めないこともあるんじゃないの?」

 

貞光「正直、分からないです。だけど、ホンマに諦めるのは早いんです」

 

津田「ふーーん。それが欠点でもあるわけだ」

 

貞光「短気っていうのもあります」

|長所と短所

津田「とはいえ、とことん優しいからさあ、その長所と短所が相まったら凄く良いのになあ!」

 

貞光「難しいような?」

 

津田「でも、貞光くんの良さは皆が認めてるから。私がいつも言うのは『利用者さんを真ん中に置いて、この利用者さんのことを考えることが皆の仕事よね』って言ってるから、そこはちゃんと王道を行ってるじゃない」

 

貞光「でも、途中で分からなくなってくるので原さん(管理者)とか倉本さん(リーダー)に質問します。原さんには愚痴も聞いてもらいます」

 

津田「それで良いじゃない。出来てる。伝えられてる。貞光くんのことは皆が認めてるってことよね」

 

貞光「ですかね?」

 

津田「私は認めてますよ」

 

貞光「ありがとうございます」


|文書作成

津田「ということは、あとは公式文書。事故報告書なんかを書くのが嫌。苦手ということなんよね?」

 

貞光「はい。嫌です」

 

野田→貞光「とはいえ、ここでも事故報告書は書きますよね?」

 

貞光「書きます。書きますけど、原さんとか倉本さんに聞いて、言われたことを丸写しにして津田さんや武田さんに出します。すると『これ、貞光くんが考えたわけじゃないよね?』って言われるんです。で、返されます。『原さん、返されたんですけどどうすれば?』。そこから、また相談が始まるわけですけど、直ぐにバレるんですよ」(津田が爆笑)

 

野田「時間もかかるよね?」

 

貞光「はい。たっぷりと」

 

津田「自分が思うままに、素直に書けば良いのに」

 

貞光「こうなって、ああなって、とか書こうと思うんですけど……違う、みたいな」

 

野田「ボクも現場を経験してますが、事故報告書やヒヤリハットは何度も書きました。
事故報告書は、夜勤明けのときなんか、書き上げるのに夕方まで時間がかかったこともありました。
上司が納得しない。で、事故の詳細の時系列に始まり、今後の対策やら自分の覚悟やらも詳細に。
貞光さんは、今後の対策辺りで躓くんですかね?」

 

貞光「もう、時系列辺りからテンヤワンヤで、そこで止まってしまうんですよ」

 

津田「文章を書く。そのものが大変なんよな」

 

貞光「そうそう。そうなんです」

 

津田「じゃあ、今度からは文章じゃなくて喋れば良いんよ」

 

貞光「えっ?? 喋ってどう?」

 

津田「録音。それなら出来るんじゃない?」

 

貞光「録音して自分の声を聞くのがねえ? なんか嫌です」

 

津田「あのね、録音して、その声を文書化してくれるツールがあるじゃない? A Iとかの?」

 

野田「あれはあれで、まだ完璧じゃないと思いますよ。貞光さんがちゃんと理路整然と喋らないと、あの、その、あれ、それ、等々全て文字化されて、纏める作業が延々と続くような?」

 

津田「そうかー。これは超難題じゃなあ!」

 

貞光「とにかく、原さんに聞いてもらって」

 

津田「それ。『聞いてもらって』っていうの、凄く良い。一足飛びに向かう必要ない。

事故報告書は、上手い文章を書くのが事故報告書じゃないから。ちゃんと、どういう経緯で事故が起きたか? 
っていうのを皆が理解できて、次から同様の事故を起こさないために皆で『ああしよう』『こうしよう』っていう素ができることが大事なわけ。

だから、事故報告書は皆で話し合うための道具。事故報告書を自分だけで書き上げたらダメ。皆で話し合って。結論は誰かに書いてもらえば良いから」

 

貞光「はい」

 

津田「貞光くんは『誰かが転んでました。何時何分に訪室したら転んでました。
お布団の上ではなく畳でした』っていう風に書けばOK。それだけ。
貞光くんだけが経験することじゃないから。他の人が『おはよう』って訪ねたら転んでることだってあるから。

ってことは、じゃあ、皆でどうしたら良いか? を考えないといけないから。
でもね、そうやって相談できることは素晴らしい! これからも、独りで抱え込まんようにね」

 

 

貞光「はい」

|やってみたい介護

津田「術を、身に付けてるよな。とっても良いと思います。ところで、貞光くんは『こんな介護がしてみたい』というのはあるの?」

 

貞光「こんな介護がしてみたい? 考えたことがないからなあ…  皆でウワーっていうタイプでもないし、輪には入らないタイプだから。原さんからも『どういう風にして、これからいきたいの?』って問われるんですけど、自分がどうやっていって良いのか分からない。例えば、自分が利用者さんとどこかへ行くとしたら手順がありますよね。車の手配、ご飯」

 

津田「ちゃんと分かってるじゃん」

 

貞光「そこら辺、分かってるんですけどね。でも、直ぐに諦めちゃうんです」

 

津田「そうかー。でも、貴重な存在よ。皆がウワーってやってて、ウワーってやってる人ばかりじゃダメじゃん。一歩離れて、その人たちがやり切れないで溢れる仕事とか、その周辺の仕事をキッチリやってくれるわけだから凄い貴重な存在だと思うんよ。

貞光くんのような存在があって、皆がウワーって出来るんよ。そんな人の存在があるから安心して本来の取り組みが出来るから貴重。それを、考えてやるわけじゃなくて自然に振る舞える。身体の中に入ってるんよ。
だから、根っからの介護職かもしれんな」

 

貞光「自分から言わせてもらうと、介護職には全然向いてない気がするんです」

 

津田「そうなの?」

 

貞光「はい。全然向いてません」

 

津田「ホー!! じゃあ、どんな仕事が向いてるん?」

 

貞光「裏の仕事っていうヤツですか?」

 

津田「そりゃ怖いなあ!」

 

貞光「つまり、人と、誰とも関わらない仕事が向いてる気がします」

 

津田「工場のラインとか?」

 

貞光「やったことがないので一概には言えないですが、自動販売機の中に飲み物を入れるとか? あんなのがやってみたいんです」

 

津田「そうなん! メッチャ大変そうだけど?」

 

貞光「基本、移動しながらなんで、煙草を吸いながら……」

 

津田「そうかー。だけど、貞光くんは介護にピッタシの人だと思ってた。というのもね、利用者さんを見る眼差しが凄く温かいもん」

 

 

貞光「そうですかね? ありがとうございます」

| “ぶどうの家”での今後は

津田「これから “ぶどうの家”で、貞光くんが『こうして行きたい ああして行きたい』とかある?」

 

@貞光、少し長い沈黙

 

貞光「そういう目標が多分、ないんで。いえ、全くないんです。探すとなると、当分かかりそうです」

 

津田「凄く良いね、それ」

 

貞光「良いんですかね?」

 

津田「良いよ。なんか、無理をしないというか? 
だって、日々の事を着実にやってくれるわけじゃない。
それは凄く良いし、それも一つの目標じゃん。

そういうのが一番難しい。だから、それを着々とやってくれてやり遂げるということが貴重だと思うわけ。

壮大な目標がないとダメっていうよりも、今やってることを着実に継続させる。それも素晴らしい目標だよね」

 

貞光「はい」

 

津田「じゃあ、煙草はどうする?」(津田 爆笑。緊張感はない)

 

貞光「『煙草をどうする?』。ボクは止める気はないんで!」(津田 大爆笑)


|働いていて楽しいとき

津田「貞光くんが、ここで働いていて一番楽しいときって?」

 

貞光「褒められる回答は、一番に“利用者さんと”になるんでしょうけれど、津田さんには申し訳ないんですが“職員と”なんですよ。
利用者さんがいて職員がいる。ではなくて、職員がいて利用者さんがいる。

こっちがボクの立ち位置なんです。職員同士で会話している瞬時。この時間ですね。

ただし、利用者さんとマンツーマン。1対1で話してるときも楽しいんですよ。利用者さん5対1とかになるとダメですけど。ワーワーの雰囲気がね」

 

津田「なるほどね。コミュニケーションをとるのが苦手って言うけど、コミュニケーションを取ってるときが一番楽しいんだ」

 

貞光「アチコチ矛盾してるんですが、実はそうなんです」

|終わりに

本音を聞き出す。なかなか面白い展開だった。しかし、愛煙家には益々、肩身の狭い時代になるのだろな、と。
率直に語っていただき、ありがとうございました。