[第25回]

本家(小規模多機能ホームぶどうの家・グループホームぶどうの家)

言語聴覚士・土井美香子(28歳)


ー2025年2月20日ー

はじめに

 

私は長く介護と接点を持って来たけれど、言語聴覚士という肩書きの人と出会うのは初めてで、どんな作業をしているのか全く不安内。
理学療法士や作業療法士は、私自身が経験した2度の入院で直接お世話になったので大まかな把握はできるが、言語聴覚士となると、 “話す”と “聴く”を中心の作業になるのだろうか? と想像するしかなかった。
事前にSNS等で検索も掛けなかったので、土井の言葉に白紙で臨めた。

|入職して半年

津田「土井さんはST(言語聴覚士)よね?」

 

土井「はい。ここに来て、やっと半年になります」

 

津田「しかし、大変な最中に来たよなあ! ホントに凄まじかったから。申し訳ないなあ、と思いながらも助けてもらって。今もなんだけど、有難いです。ここに来て、ビックリした?」(二人爆笑)

 

土井「ビックリ? そうですねー。でも、介護のお仕事も “やってみたいな・知りたいな”っていう気持ちはあったんで、STの資格を持ちながらも、介護の仕事もやらせてもらえるというのは貴重だなと思ってます。私も有難いです」

 

津田「そう言ってもらって、とても有難いです」

 

土井「実際、楽しくやらせてもらってるので」

 

津田「もうね、なんでもやってくれるもんね本当に。いろいろチャレンジというか? 訪問も行ってくれてるし」

|職種の壁

土井「そうですね。訪問は、当初はリハビリとして行きたいな? っていうのがあったんです。
でも、訪問とはどんなサービスなんだろう? そこから先ず経験させてもらってる状況です」

 

津田「私が言うことは凄く勝手なんだけど、

『介護の人たちが、こんな思いでこんな風に訪問へ行ってるんだな』
『こんなところを悩んでるんだな』
『こんなところにやり甲斐を感じるんだな』
『利用者さんが、こういう風な表情をするときもあるんだな』

っていうのを、身をもって体験して介護の人たちとの距離をグーーウと近づける経験を持ったリハビリの人は、介護職からしたら凄く頼りになる存在だと思うんよね。

だから、土井さんにはもの凄く期待しているんです」

 

土井「職種が異なると、壁を作ってるわけじゃないんですけど、壁を感じるというか? 
介護士さんと看護師さんにでもあるじゃないですか? 

だから、介護要員として入れてもらいながら、一緒に働く中でちょっとアドバイス?
 『ここは、こういう風にしてみてはどうでしょうか?』って提案が出来るっていうのは凄い良い関係と環境だなと思いますね」

 

津田「多分、職種の壁も大きいけど、それを取り除こうと思ったら、先ずは人と人のお付き合いが大事なんだと思ってる。職種の壁って難しい。意識してないようでも意識しちゃう」

 

土井「そうなんですよね」

 

津田「それぞれにバックが違うから、主張するところは主張しないといけないし、
それぞれの主張すべきところがあるからするんだけど、でも、それをリハの人とか看護職とか介護職って言う前に、

土井さんだからとか誰々さんだからっていうのが先に来ると、スッとお互いに話ができるんじゃないかなあ? 
すると『あっ!! 土井さんはSTだった』となって、スムーズに事が運ぶように思う」

 

 

土井「時間を掛けてやらなきゃいけいなあ、と思ってます。
ここに入ったばかりですが、『STとしてどう思う?』って聞かれて『こう思います』って応えますけど、

でも介護さんと看護さんとで多分、思ってることは少しづつ違うところがあったりするから、

私の全部の意見が通るとは思ってなくて、私の意見の全てを通して欲しいとも思ってませんが、

試行錯誤しながらでも少しずつ近くなれたら良いなあ! とは思ってます」

 

 

 

津田「皆が利用者さんのことを思ってれば、最終は上手くいくんよ。
だけど、そこの過程が、どの道を通って行くかは選択するんだけど、偶にえらい遠廻りをするときもあるんだよね。
土井さんが入って来てくれて、いろいろ教えてくれる。
それは現場にとっても凄く良いよね。でも、思い通りに行かんこともある?」

 

土井「『あっ!! そういう考え方もあるんだ』と思うことはありますね。
どうしても、ST目線でっていうところで見がちなんですけど、それだけだったらいけないんだろうな……これまでが病院勤務だったんで、病院は治療の場だから『こうあらねばならない』的な環境下で目標に突き進んでました。

でも、介護ってなると在宅での生活の場になるから、それだけじゃないんだろうな?
なんとなくは想像はしてたんですけど、実際の介護現場に入り込むと、治療と生活の異なりが見えてきました。

折り合いは必要ですね。私の意見も交えてもらいながら、介護士さん看護師さんの考え方に沿って、利用者さんに沿って進めていけたら良いなと」

 

津田「土井さんに来てもらって、やはり良かったです。そういう風に言ってくれる土井さんだから、大正解だったと思う」

 

土井「『あっ!! 今、食べさせるんだ』とか、ドキッとする瞬間はあります。
でも、上手く行ってるし、上手くいかなかったらヒヤヒヤですけど……でも、イケルって思うことは、それだけ利用者さんのことを理解した上で行ってるんだろうなっていう風には思うんで…」

 

津田「そうなんよな。そこの感覚なんよな。
今だ! とか、今日なら! とか。あの感覚を、皆がわりと持ってて、でも、それを上手く言語化できない。
数値化もできないよな。

例えば今日、熱が何度だとか、脈拍がいくらだとかの数値化の世界ではなくて、ホントになんとなく、みたいな中でやってるから、それは医療職の人から見たら『なにやってんだコイツら』って」

 

土井「そうなんですよ。ドキッとすることがありましたね」

 

津田「なると思うよ」

 

 

土井「これが在宅か!!って」

|利用者さん・家族の覚悟に寄り添う


津田「もう一つは、ある種、利用者さん・家族の覚悟に寄り添ってるというところもあるね。例えば、食べたいわけよね、利用者さんも。でも、食べたら危険かもしれない。

だけど、もしそれを食べて自分が詰まって苦しくても、命に関わっても “食べたい”と思ってる。こんなとき、危険だから食べれませんよって閉じてしまうのか? そこに、とことん付き合おうって思うのか? ってなると、利用者さん・家族が持ってる覚悟に私たちが寄り添うというか? 付き合うというか? その為の覚悟が必要になるんよ。

そういうところが在宅なんかなあ! っていう風には思う。だけど、この状況・状態・心の有り様等を言語化するのが難しくて。逆に言うと、土井さんはこの課題を言語化することが出来る人かもしれないね。

そういうのを、どこかで言葉にしてくれると嬉しいかも?『介護の人たちが今ならたべられそうと思うそれは、なに?』みたいな。一般の常識とは違うよね、きっと!」 

 

 

土井「私も、前の職場が病院で、病院ではやはり治療・治療の方に考えが行きやすいんです。
それこそリスクを背負った物だけど『これ食べたいんです』って患者さんが言ったとして、私たちからみて『多分、チャレンジできる』と思っても、お医者さんの方から『止めといて』って言われたらそこでキッパリ終わりになってしまうんですよ。

そんなとき、私も『こういう感じですから食べられると思います』って言えたら良かったんですが、病院の決まりには抗えなく挑戦できませんでした。

でも、“ぶどうの家”だったら利用者さんの思いに沿ってというベースがあるから、『こういうの食べたい』と言われれば『じゃあ、どうやったら食べられるかなあ?』って一緒に考えられる。

ということも知人から聞いてたんで “ぶどうの家”で働いてみたいなと思ってました」

 

 

津田「そうね。危険だから止めようではなくて、『じゃあ、どうやったら食べられるか?』って風に考えるもんな。
極端に言えば“臭い”だけ感じてもらうときもあるけど、それでも本人が納得をしてくれるときもあるけど、でも、なんとか工夫をして食べられるようにという、皆の思いと心掛けが大事よな」

 

土井「どうしても食べられない物もあるでしょうけど、でも全部が食べられないわけじゃないな。
って病院勤務の頃から思ってたんで『普通食ダメ』って言われたら、全部ドロドロにしなくちゃいけなくて……。
『これだったら形あっても食べらるよ』って、それを試させてもらえるのが、ここで働かせてもらって良かったところだと思ってます」

 

 

津田「来てもらって本当に良かった。いろんなことを、心配だけど一緒にチャレンジできるっていうところがね、嬉しいよな。やろうと思う利用者さんや家族にとっても凄く心強い。

私等がなんぼ、やってみよう・大丈夫って言っても、専門職がいてくれて一緒にっていうのとでは違うからね」

|言語聴覚士への認知度の低さ

土井「なんか、言語聴覚士っていう職種自体がマイナー過ぎる存在で、津田さんとか業界の人だったら『あっ! 聞いたことあるな』とか、知ってくれてる人もいるんですけどね。でも家族さんからしたら、『なに? それ』みたいな」

 

 

津田「まだまだ知られてません、みたいな?」

 

 

土井「『看護師です』と言われたら直ぐに納得できるはずですけど、『言語聴覚士です』と言われ『これこれこういう理由で食べれますよ』と言われても、『いやあ? あなたに言われても』って」(二人で大爆笑)

 

 

津田「そこまではないだろうけど、認知度がね?」

 

 

土井「言語聴覚士っていう肩書きが、あまり強みになってないのかなあ? と感じますね、肌感覚で。で、例えば、Nさんの場合、今はドロドロのって言うと良くないですがペースト食。

飲み込みやすい食事形態ではあるんですが、安全面を考慮してですね。ただ、本人はもうちょっと形のある物を食べたいし、食べれるんです。

担当医からも『大丈夫だよ』って言ってくれてるんですが、その説明をご家族にもするんですが、家族さんが心配性で『少しでも長く生きて欲しい』『喉に詰まらせて欲しくない』っていう事情から実現化できてないんです」

 

 

野田→土井
「そのご家族の気持ちは良く分かります。私も認知症の母の在宅介護を10年やって、唾を飲み込むときでさえ、咽せから咳き込みはじめたので胃瘻を装着しましたから」

 

 

津田「できるだけ安全に長生きをして欲しい」

 

 

土井「その気持ちも良く理解できるんです。
でも、本人さんには食べたい気持ちもあるから、どっちを選択したら良いんだろう? 
ってところで、娘さんに納得してもらえる説明の仕方が、伝え方があったのかなあ? と思いながら……」

 

 

野田→土井「言語聴覚士さんは嚥下も範疇なんですか?」

 

土井「そうなんです」

 

津田「お喋りの方とか、想像するよな?」

 

土井「言語って付いてますからね。ただ、言語聴覚士としての歴史そのものが浅いんで、言語療法士の呼称のイメージが強いですね。嚥下に力を入れ始めた歴史も浅くて、昔は失語症の方がメインだったように思います」

 

津田「確かにねえ!」

|言語聴覚士を理解してもらうために

土井「だから、もう少し、その辺りの信用を得られたら良いなと思いながら。
とはいえ、私も入ったばかりだし、娘さんに私のことを知ってもらえてもないから、多分『一職員が何か言ってる』『そんな危険なことを』みたいな…」

 

 

津田「娘さん、凄く心配してるからね」

 

土井「心配も重なって、余計にそんな気持ちになってるんだろうな? と」

 

津田「じゃあ、今度、書いてみる? “ぶどうの家”のお便りに『言語聴覚士の仕事とは?』って。ご家族にも配るから」

 

土井「そうなんですね」

 

津田「Nさんの娘さんも読んでくれるだろうし? そういうところから始めるのも一手だよね」

 

土井「それは良いかもですね。いざお会いして『言語療法士ってこんな業務内容です』と説明しても『ハア?』みたいになるかも?」

 

津田「最初は紙面の方が良さそうだね?」

 

土井「はい。読んで頂いた方が、理解していただきやすいと思います」

 

津田「じゃあ、一回書こう! 娘さんは真面目で一生懸命な人だから読んでくれるはず」

 

土井「娘さんの考えが間違ってるとは全く思ってないんですけど、いろいろな寄り添い方があるんだろうな? って思いながら…」

 

野田「そうなりますよ、家族なら。嫌われることも厭わない」

 

津田「そうよな。大事にしてれば、してるだけね」

 

土井「病院ではメリハリがはっきりしてますから、良い悪いの二者択一的な傾向になりがちですが、介護は良い意味で曖昧模糊としてますから入門者の私には戸惑いも多いです」

|これから

津田「さてと、これからやっていきたいことはある?」

 

土井「先ずは、職員さんとコミュニケーションをもっと取って、“ぶどうの家”に馴染むことですかなあ?」

 

津田「もう、かなり馴染んでように見えるけど?」

 

土井「馴染んでますか? 津田さんも言ってくれましたけど『土井が言ってるならやってみようか』って感じで、そう思ってもらえるような存在にはなりたいな、とは思ってますが、それには時間を掛けないとなあ! とも覚悟しています」

 

 

津田「それはなるよ。そうなりたいと思って話してたら、なる」

 

 

土井「それと、以前にお話もしましたが、加算。
言語聴覚士として独自で取れるっていうのもあったりするようなので、それを取れるように動けたら良いなとは思ってますね」

 

津田「まあね、それをやればね、利用者さんにとってもメリットがあることだもんね。それをやるよっていうのが、全職員へ浸透していけば良いよねえ!」

 

土井「そうなれば、とても嬉しいです」

| 改善したいこと

津田「じゃあ、 “ぶどうの家”に来て、こういうのは嫌だな・改善したいな。みたいな事はある?」

 

土井「嫌だな、改善したいな。えっー!! 載るんですか? 」

 

津田「いやいや。載せたくなかったら載せないから」

 

土井「そうですね。常にバタバタで余裕がないっていう瞬間が…訪問から人が帰ってきて、皆が本家の戻ってきたら職員も多くなるんで、なんとなく余裕にはなるんですけど、心の余裕がないタイミングもあります。

そういう瞬時を減らせたら良いなあとは思います」

 

 

津田「どん底ではないけど、若干、人が足りないね」

 

土井「もうあと一息って感じですかね?」

 

津田「真備にも行ってくれてるじゃん? 真備の動きは船穂とは少し違うと思うんだけど、真備の方ではどうかな?」

 

土井「言語聴覚士としてですか?」

 

津田「言語聴覚士としてでも土井さん個人としてでも」


土井「そうですね。向こうではお昼ご飯を食べる前に、皆で体操をしましょうって中で、口の体操も取り入れてっていう風にやってます。ただ、ネタが切れるみたいな感じで職員さんからは度々言われるんです」

 

津田「ネタが切れる?」(津田がギャハハギャハハと大爆笑)

 

土井「いつもこれっていう感じなのかな? 
お馴染みにしても良いんだけど、たまには違うこともやってみたい。

で、『こういうのはどうですか?』っていうのを今、作って出してみたいと準備してます。
それが、聞いてくれる職員さんが一人・二人だけとかなんで、それを皆に浸透できたら。

そうなれば皆で考えられるだろうし、でも、向こうは向こうでバタバタしてますから、少し気持ちに余裕があれば良いなあ! と。
配食センターができて、働き方に少し変化が出たのも一因なんでしょうけど…」

 

 

津田「ここ一ヶ月、バタバタしてる。おまけに泊まりがズーートあったりして。

このタイミングでこれですか?って全てが重なって。でも、徐々に改善するけんね。

 

今まで、ご飯をそれぞれの場所で作ってたのを、一箇所に集めてセントラルキッチンでご飯を作って持っていくというやり方に9月から移行しました。そこから一ヶ月半。やっと軌道に乗り始めたかな? 
最初はもう、どうして良いのか分からないって調理の人たちも大混乱」

 

 

土井「そうでしょうね。今は落ち着いたんですか?」

 

 

津田「落ち着いた。今、私がここに居るということがその証。これで、ちゃんと軌道に乗れば、『じゃあ今日は、現場で少し余裕があるから皆でお昼ご飯を作れるよ』とかいう日もドンドン出来てくるから、そうなれば本当の意味で利用者さん主体でご飯作りができると思うんよ」

 

土井「ああっ! そうですね」

 

津田「今までだったら『今日、ご飯ないけん作ろう』って、義務だったんよ。

だから、忙しい中で職員が『作って』って言って、利用者さんもお手伝いをせんといけんかった。

 

これからは利用者さん主体で、そういう時間が取れるからそこもググッと改善されるはず。じゃけん、そうなれば、そうなるんだけど、土井さんの出番も増えるはずだからよろしくお願いしますね」

 

土井「そうですね。そうなりますね」

 

津田「そのときには、皆と同じメニューで『この利用者さんなら、こうやれば食べられよね』とか、そんな工夫もできるんじゃないかと思うんよ。

 

例えば、カレーなら食べられる人もおるわけじゃん。そういう取り組みが出来るようになれば良いなあ! 

 

もっと良くなるなあ! と嬉しくなるんよな」

 

 

 土井「落ち着いたなら良かったです本当に! 

本家も真備も、花帽子もそうだと思うんですけど、やり方が変わったというので混乱がですね…」

 

津田「変革期の大混乱じゃったなあ!」

 

土井「そんなに言わんでも良いのに。ということもありました」

 

津田「言っとったろ? 仕方ないな、変わり目だったから。でもな、現場は現場で必死なんよ。

それこそコロナの頃と同様で、現場のスタッフが現場に入れなくなるときがあるんよな。

 

最小人数で、今いる利用者さんを見切らないといけない。

しかもそれが、3時間とか4時間じゃなくて24時間なわけだから。

となったときに、なにがどうあっても、ご飯だけは届くっていう安心感。

この安心感が存在することが、セントラルキッチンを創った一番のメリット。

 

BCP(事業継続計画)を考えても、このやり方はやっておかんといけんかなあ! と思ってた。

 

災害とかコロナとか? 先々、見えないことも多いから」


|終わりに

言語聴覚士を、対談後・編集前に検索してみた。日本言語聴覚士協会のホームページ冒頭には以下のようにあった。

 

私たちはことばでよってお互いの気持ちや考えを伝え合い、経験や知識を共有して生活をしています。

ことばによるコミュニケーションには言語、聴覚、発声、発音、認知などの各機能が関係していますが、病気や交通事故、発達上の問題なのでこのような機能が損なわれることがあります。

言語聴覚士はことばによるコミュニケーションに問題がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職です。また、摂食・嚥下の問題にも積極的に対応します。