[第15回]

ぶどうの家フローリスト兼調理リーダー(仮)・川田絵梨子(34歳)


ー2025年11月10日ー

はじめに

 

対談に指定されていた土師邸で待っていると、「場所を移動して欲しい」と津田から連絡が入った。
その場所は初めて聞く所。真備地区にある幾つかのぶどうの家の関連施設ではない。??? 足を向ける。
着くと、洒落たお食事処という雰囲気の小店舗。そこが、これから“ぶどうの家”全ての関連施設(真備・船穂)で提供される食事を、一手に担う中心地になるということを初めて知った。

|対談に入る前の雑談

津田「いつも急に始まるんよね」

 

川田「こういう企画が今日あるというのも、ついさっき聞いて」

 

津田「全て、予定通りに進むということがほとんどないね」

 

川田「津田さんの思いつきで、それに皆が巻き込まれていくという感じですかね?」

 

津田「えっ!? 巻き込まれとんかなあ?」

@爆笑モードから対談本番へと向かうが、この和やかな雰囲気で終始進められる。

|自己紹介

津田「じゃあ、自己紹介からね」

 

川田「川田絵梨子と申します。か わ “だ” です。8月1日から“ぶどうの家”に勤めさせていただいてます。

今は、キッチンというか調理スタッフを纏めるのに翻弄されているというのが実情です」

 

津田「来て早々になあ!」

 

川田「来て早々、やることがたくさんあって」

 

津田「凄いと思う。『こんなこと、やってられねえよー』ってなるかなあ? って心配してたんよ」

 

川田「もう、この勢いに乗って毎日を突き進んでいるんで、あっという間に日々が過ぎてます」

 

津田「私もここ最近は疲労感が強くて」

 

川田「新しい事業を立ち上げるのって、こんなに手探りというか? 足りないこととか、トラブルとか…… 出ますけど、だけど皆で意見を出し合って改善してやっていくというのは楽しいですけどね」

 

津田「確かに。それを寛容にやってくれるから凄く助かるなあ」

 

 

川田「皆それぞれに性格も違うし、出来ることとか得意なことも異なります。それを見極めて皆を纏めていけたらなあ、とは意識してます」


|以前の仕事

津田「この形態の仕事って以前にやってたの? 人を纏めるというような?」

 

川田「お花の仕事をしていたときも一番上にトップがいて、その直ぐ下で働いていたので新しい人が入ってきたら指導とか教育係的な面は受け持っていました。中間管理職のような側面はありました。でも、全く無いという0からのスタートは初めてなので、毎日が目紛しいです」

 

津田「そうなんじゃ。じゃあ、トップのボスがいて川田さんがいて、その下には何人くらいいたの?」

 

川田「どうだったかなあ? 7~8人かなあ? でも、1日に出勤するのは全員ではないので4人? とか5人でした。纏めるという視点ではそこまで出来てなかったですが、それぞれに『これやってね』とか『あれを片付けてね』みたいな仕事の振り分けはやってました」

 

津田「それはどんな仕事? お花屋さんっていったら、私が想像するのは店舗があって仕入れてきて、バケツにいっぱいお花が挿してあってお客さんが来たら選ぶみたいなイメージなんだけど?」

 

川田「お花を仕入れて来た日は店に戻って、 “水あげ”と言ってお花が長持ちするように茎を切ってバケツに入れて。
とかをするんですけど、そこから週末の結婚式に向けての準備期間です。

今週の結婚式は、こんなお花だな、こんなイメージだなというのを改めて精査して、会場毎にお花を分けます。
で、前日に式場のテーブルの上とかに飾るお花とかブーケとか、髪の毛に付けるお花などを創る日になります。
当日は会場入りして短い時間の中で仕上げて、戻って来て次の会場に向かったりもしました。

次の日の準備、更には来週の資料を纏めたりして、それこそ料理と一緒で、仕入れ・仕込みとかで当日の動き・内容が変わってきます。チームプレーなんですよ。


何と何を掛け合わせたら美味しくなるとかもセンスじゃないですか? 食材のこれとこれが合うんじゃないか? 
お花のこれとこれが合うっていうのも一つのセンスで、それこそ人によって同じ課題でも出来るモノは異なってきますから」

 

津田「それはそうだね」

 

川田「料理とホントに似てますよね」

 

津田「そう言われてみると、本当にそうだ」

 

 

川田「以前に働いてた花屋さんのボスが言ってたのは『料理が得意な人はお花とかもやると得意だと思う』って。合わせ? 似てるって言ってました」

津田「じぁけん、川田さんは料理も出来るんじゃ」

 

川田「そこは、どうなんでしょう?」

 

津田「でも、性格は現れるよな」

 

川田「そうですね。でも、子供向けワークショップもやってたんですけど、子供が創るモノって面白いんですよ。凝り固まってないんです。

発想の豊かさとかがね。『こんなふうに花材を使うんだ』って驚かされたり学ばされたり」

 

津田「それは花と花の組み合わせとか?」

 

川田「組み合わせとか……
私たちだと薔薇、百合とか、メインになる花というか? この花をドーンと置いて周囲にサブのお花という風に凝り固まっているんですが、子供たちには全然そいういのが無くて、ダリアとか薔薇の花を短く切って隅っこの方に活けてたりするんですよ。

活けることが出来る、と言った方が良いのかな? 

こういうとき、気付かされます。こういう使い方・活け方もありなんだなって」

 

津田「凄いな。それを見てそういう風に思える・学べるということは」

 

川田「違う考えの人からでも学べることってあるじゃないですか? どの職業でも」

 

津田「そうそう。だからそんな柔軟なんだ?」

 

川田「でも、吸収したりとか新しいことにチャレンジすることは大好きなんです。いろんな人から話を聞くのも好きだから、そこから何かを盗めたら良いなあ! って普段から」


|非日常世界から日常生活へ

津田「そこから弁当屋さんへ? お花は辞めてたの?」

 

川田「ハイ。結婚式っていう非日常の華やかな世界を飾り付けするのは素敵なことでした。
やり甲斐もありました。
だけど、なんか? もっと生活に寄り添うと言うか? 特別なモノじゃないですか、結婚式って。

 

特別なお花であって。でも、お花をもっと日常生活に落とし込めるんじゃないかなあ? と考え始めたんです。
日常のお花は季節を感じることもできるし、お花が一輪飾ってあるだけで気持ちもハッピーになれるし会話も生まれる。

そんな中、介護施設を経営してる友人と話しているとき『こういうことがもっと介護施設の中で、植物に触れ合う機会とか目に付く機会があると良いよねえ!』って話になったんです。
だけど、私は介護施設に携わったこともなく、立ち入ったこともありませんでした。
何も分かりません。何も分からない私が急に行っても、立ち入ることもできないだろうし…… もちろん、当時コロナ禍という事情もありました。

そこで『外にも出掛けられないお年寄りとかの為に動いて見たら良いんじゃない?』ってアドバイスをもらいました。
とはいえ、直ぐに動こうにも無理です。ただ、この友人がお弁当の事業をスタートさせるということで便乗したんです。
じゃあ、何かのきっかけに私も携われるんだったら、将来そのやりたいことに繋がるんだったらっていうので介護施設と強く結び付きのあるお弁当屋さんに」

 

津田「そうだったんだ!介護も今は仕事になってるけど、本質は福祉だから日常なんよ。
川田さんがお花を日常に落とし込めるって思った感性が凄い。私も介護が特別な事だとは思わないのと一緒で、職種は違えど通りは同じなんよな。川田さんをウチに誘った時に二つ返事で了承してくれたのは、本質が通じてたからんかな」

 

川田「私が想像している介護施設の中ってこんな風に飾ったら良いんだろうな。とか、もっとこうしたら良いのになあ? っていうのと、現場って全然違うじゃないですか? 
だから、少しずつ介護業界の事を知っていきながら、いつか? お年寄りとかに提供できたら良いなあって感じです」

|調理の拠点

野田→津田
「調理の拠点を1箇所に統合させるということですが、なぜ?」

 

津田「調理は今、あっちこっちと分散していて作ってるんだけど、人手が段々と厳しかったりというのもあるし、少ない人数で協力しあって作った方が皆も楽なのかなあ? とか思って」

 

野田「ということは、ここは食事の配送センターみたいになるわけですね?」

 

津田「そうなります」

 

野田「だいたい、何食分を調理するんですか? 小多機の配食も含めて」

 

川田「170食くらいじゃないですかね?」

 

野田「となると“ぶどうの家”だけじゃなくて、いずれは他の所からも請け負っても良いような?」

 

川田「それはないです。そうなると工場になってしまいますから」

 

津田「ないない」(津田 川田 野田で大爆笑)


|調理と花とetc

野田→川田「すみません。振り出しに戻ってしまいますが、お花のショップに勤務されたのはお幾つからですか?」

 

川田「25歳くらいだったかなあ?」

 

津田「花屋さんって修行ってあるの?」

 

川田「修行というよりも、勤め出して学ぶ。そんな感じでした私は。華道なんかはあるんじゃないですかね?」

 

野田「花屋さん。そしてお弁当屋さんで独立?」

 

川田「お花が8年。お弁当が1年です」

 

津田「川田さんの場合、ここに来ても調理ばかりをやってもらうわけじゃなくて、メインは花なので、その花を使っていろんな取り組みをして欲しいと期待してるんです」

 

野田「花を飾ったりされるんですもんね?」

 

津田「後で土師邸に行って見て下さい。離れ、凄いから。遊びでやってくれてもボリューム満点! 野田さんが次回に来る時は花の彩りも増えてるから。今は調理の方が忙しいから無理だけど」

野田「それは土師邸の庭にあった花ですか?」

 

津田「そうそう。あの花はそこら辺にあった花よな?」

 

川田「街路樹とか切っている人たちがいるじゃないですか? あの人たちに声を掛けて『処分されるんならもらっても良いですか?』って。以前からやってたんですが、捨てられるモノを利用してるんです」

 

@ここから数分、庭とか花談義になる。

私事だが今、ローゼルを育てていて、ローゼルティーなどを飲んでみようと画策している。

川田からはナイスなドライフラワーにもなるからとアドバイスを頂いた。

 

川田「でも、こういう会話、楽しいですよね」

 

津田「そんなこんなが“ぶどうの家”の利用者さんとできたら良いし、土師邸前の幼稚園の子供たちともできたら良いし」

 

野田「なんか、画期的な取り組みですね?」

 

津田「でしょ! だから、お花を通じていろんな広がりがこれから出来てくるんですよ」

 

川田「地域とかともね。広がれたら周りの方と交流がね。楽しいですよ」


|意地悪い質問

@川田が介護担当ではないことを承知で、敢えて意地悪い質問をしてみた。とはいえ、介護現場に立つとき、簡単な介護補助程度は周囲の介護職から依頼されることもあるだろうから。

 

野田→川田「まさかとは思いますが、おむつ交換なんてやりませんよね?」

 

川田「えっ!? それはしません。介護は出来ません。資格もないし」

 

野田「資格は必要ないですよ。給料には、資格ある無しで差は出ますけどね」

 

川田「いえいえ。私は介護とは関係なく」

 

野田「でも、画期的ですよ。川田さんのような人がいるということが」

 

津田「そうでしょ。ウチで働くって介護じゃないとダメってことではないんよな。
『自分がやりたいことが出来る』っていうのがウチでもあるから。

例えば『バンド活動がしたい』『カフェがやりたい』『ウエブデザイナーがしたい』『古着屋がしたい』、だから『ぶどうの家で働こう』って思ってもらえたら嬉しい。

駄菓子屋もブランチも土師邸もそう。『あなたのやりたいこと』は『誰かが望んでいること』にきっと繋がっている。
だから川田さんがグループホームの居室だってお花を飾ってくれたら凄く良いと思う」

 

野田→川田
「そうは言っても、現場で花を飾っているとき、現場職員から利用者さんが座ってる車椅子を見ていて欲しい・押して欲しいと頼まれたら?」

 

川田「もちろん、それはやります。出来ることはやります」

 

|土師邸


津田「川田さんを凄く頼りにしてるんよ」

 

野田「プラスαのαの部分が未知ですもんね」

 

津田「そう思います。土師邸だって、どんどんどんどんキレイになって楽しくなったら“ぶどうの家”のお年寄りだって楽しみ。近所の人たちだって『ちょっとお茶でも飲みに行こうか』という場所になるだろうし」

 

野田→津田「ところで、土師邸の役割って面白い部分もありますよね。元気な頃は土師邸に集い、その後に介護が必要となれば、そのまま“ぶどうの家”でお世話になる」

 

津田「それは極一部の人だろうけど、元気なときから知り合っておくのは介護が必要になったとき両者にとって助かる。
だって、この人はこういう人だから、こういうお世話をしたい。
こういうことができるとか、日頃を知っているからこその強みですよね。土師邸には、そういう強みがある。」

|これからやりたいこと

津田「これから“ぶどうの家”でやりたいことがあれば? もし、あるんだったらお願いします。忙しくてそれどころじゃないでしょうけど」

 

川田「土師邸の離れ? 長屋って言われましたっけ? 

あそこが全く活用されていなくて、あんなに良い場所なのに誰も手が付けられてない状態が続いてますよね。

あそこを、もっと人が集まれるような場所にしたいというのが強い思いです。

近所の方とかでも気軽に、それこそ保育園のお迎えのお母さんとかも気軽に寄れる様な場。

地域の方との憩いの場が出来たら良いな、ということです」

 

野田「土師邸そのものが憩いの場でしょ?」

 

川田「長屋の方を活用したいんです」

 

野田「活用の仕方は異なるんですか?」

 

川田「cafeも視野に入ってます」

 

津田「でも、あそこに花があるだけで凄く良いと思うなあ!」

 

野田「庭にですねえ」

 

川田「そうです。庭に植物を植えて、その植物を使って飾り付けをするとかですね」

 

津田「じゃあ、あそこの庭でできたトマトを使って、ピザが焼けたりすることになるんじゃなあ! 素敵じゃなあ!」

 

野田「良いですねえ! これから秋桜の季節が来ます。あの庭一面に秋桜が咲き誇り風に揺れてるなんていうのも最高ですね」

 

川田「やはり、お花のチカラって大きいんですよ」

 

野田「とっても大きいです。私も高齢者ですけど、花に興味を持ってからは老いも悪くないなあ! と思えたりするようになりましたから」

 

川田「ですよねえ。自分で育ててると、他所のお庭が気になりませんか? 『このお庭、キレイに手入れしてるなあ』とか?」

 

野田「そのとおりです。ウォーキングしてても、右を向いたり左を見たり。他所の庭の開花ぶりが気になって仕方ないんですよ。『あっ!! 向日葵が、こんな大きゅうなっとるがな』とかね」

 

津田「で、皆で話しをしてるでしょ」

 

川田「そうそう。『この花って、何んて名前?』とかね。土師邸の庭でそんなことになったら最高ですよ」

 

津田「来年くらいには期待できるな」

 

川田「なって欲しいです」

|社長への要望は?

野田→川田
「この企画では必ず聞くんですが、津田社長への要望とかありますか?」

 

川田「まだ入ったばかりですからありません。半年後に改めて聞いて下さい」


|最後に

個人的には「いやあ、ホントに楽しかった」で締めくくりたい。

それと、“ぶどうの家”に新風が巻き起こる予感もする。

もう吹き始めているのかもしれないけれど、来春、土師邸の庭一面に花が咲き乱れる様子が目に浮かぶ。
川田へのプラスαのαへの期待値が津田からも大きい様子。
とはいえ、無理せずほどほどに頑張って下さい。