[第13回]

本家(小規模多機能ホームぶどうの家・グループホームぶどうの家)介護職員・村上美智子(46歳)


ー2025年10月20日ー

はじめに

 

今回は初めてマスク着用でのインタビューとなった。村上が基本的にSNSと馴染みがないこと。
その馴染みのない世界に、自身の顔を出すということに抵抗があるとのこと。無理は言えない。
とはいえ、今回も今回なりに個性ある内容となっている。そして、村上は勤務を終えて帰宅すると実母の介護が待っている。

|本家とは

津田「自己紹介からお願いします」

 

村上「村上美智子です。46歳。介護福祉士です」

 

津田「グループホームと小規模多機能のスタッフということね」

 

野田「11回で登場してもらった赤松さんと同様ですね」

 

津田「本家のスタッフということです。本家は、グループホーム5床と小規模多機能ホーム(通いは1日12名 泊まりは4名の利用が可能)の一体運営です。それを本家と呼んでます」

 

|“ふかぼり”について

津田「この企画は『私が全部の職員さんと話をしましょう』というもので、私が職員さんのことをあまり知らない事もあって、なので私が職員さんの事をもっと知りたいということが一点。

 

もう一点は、職員さんが私に要望・注文を出す。普段そんな機会もないはずだから、ここで一気に捲し立ててもらっても良いわけ。でも、なかなかそんな風には行かんよね。なので、気楽に話してもらえれば助かります」

 

村上「なんかドキドキしてて……」(緊張しながらも大笑い)

 

津田「村上さんは、ここに来て何年になるのかな?」

 

村上「ここに来て11年になります。2014年に入りましたから」

 

津田「長いよなあ! ありがとう。で、それ以前はグループホーム(以降はGHで統一)にいたんよな?」

 

村上「ハイ。GHです」

 

津田「なんで、そのGHから小規模多機能に来ようと思ったん?」

 

村上「どこか良い所を探してたんですよ。で、近い所が優先でしたから、あまり小規模多機能とかは気にすることなしに応募したんです。GHも並列して載ってましたからね」

 

津田「そうかー。で、入ってみたら?」

 

村上「利用者さんの自宅に訪問したりで、GHとは全然異なるなあ、でした。関わり方もですね」

 

津田「どんな風に?」

 

村上「私が勤務していたGHは、なんて言うのかなあ? 施設々々してました」

 

津田「GHでも、家庭的と言うよりは施設々々しているGHだったんだ?」

 

村上「職員の動きを中心に事が運ぶという様な状態でした。利用者さんに合わせてということではないんです」

 

津田「どっちかと言うと、一日の流れを職員が決めてあって、職員の動きに利用者さんに合わせてもらうみたいな?」

 

村上「そうそう。正にそんな感じでした。ここ本家は、利用者さん個々の動きに合わせて介助手法も違うじゃないですか」

 

津田「戸惑った?」

 

村上「最初はメチャクチャ戸惑いました。Mさんとか、いざって移動してるじゃないですか。『えっ!? いざるの? このままにしておいて良いの?』みたいな」

 

 

|いざる について考察。

@差別用語であるとの指摘もあるが、ここでは、そのままを使用する。

 

いざる。

この語彙をYahooのAI回答で検索すると、漢字と意味が以下のように出る。

 

「いざる」と読む漢字には、「躄る」や「膝行る」があります。

 

「いざる」は、座ったまま膝や尻を使って移動することを意味します。また、物が置かれた場所から自然にずれて動くという意味もあります。

 

「いざる」の漢字表記は以下の通りです。

躄る(いざる):足が不自由なこと。

膝行る(いざる):膝を使って進むこと。

 

「いざる」は、「居去る」が語源であるという説があります。「居」は座る、「去る」は移動するという意味です。


津田「まあ、普通の施設であればないよね。車椅子に座ってもらってとか、急いでベッドへとかね。でも、ここでは皆が好きにして良いんだよ。放置じゃないんだから」

 

村上「自由ですよね皆さん。でも、危そうなので手助けに行きたくなるんですけど『行ったらダメ』って言われますから。そこら辺りに以前との隔たりを感じました。

 

で、訪問については、今になって記憶が薄れてるんですが、とにかく道が分からなくて苦労しました。訪問すればするで、各利用者さんの内容が異なるし、これで合ってるのかどうか? 不安ばかりでした。慣れるまでは時間が必要でしたね」

|慣れ

津田「前の勤務先との違いとか、初体験の訪問とか、それを克服するには慣れしかないということなのかなあ? どうやって乗り越えた?」

 

 

村上「ウーム!? 言葉通り慣れしかないでしょうね」

 

 

野田→村上「慣れるまでに『ああした方が良いんじゃないか? こうした方がベストじゃないんか?』等、努力はあったんでしょ?」

 

村上「いやあ? 覚えてないんですよ。なんかやったかなあ?」

 

津田「順応性はあるよな」


|介護の世界に入ったのは?

野田→村上「最初はGHからということでしたが、元々、なぜこの業界に入られたんですか?」

 

村上「介護の業界は介護の専門学校に行ったんで」

 

 

野田→村上「つまり、介護の専門学校に進んだということは、介護職になることを前提だったわけですよね?」

 

村上「母が看護師だったんですけど、同じように私も看護師をしたかったんです。

だけど、血が怖いし、注射するにも血が怖くて断念したんです。

でも、お年寄りのお世話だったら役に立てられるかな? って考えて専門学校へ行きました」(津田が爆笑。ハッハッハッ)

 

野田→村上「で、卒業してGHへ?」

 

村上「いえ。最初は特養でした。社会福祉法人傘下の。特養→GH→ぶどうの家の順です」

 

津田「特養からGHに移ったときは、どんな理由だったん?」

 

村上「特養は、とにかくしんどかったんです。小さい施設の方が続けられるかな? と考えて」

 

 

野田→村上「どんな風に特養は辛かったんですか?」

 

村上「新しく建てた施設だったんで、全て1からの出発だったんです。それで、誰に聞いたら良いのか? 

皆、私同様に右も左も分からない状態の人たちでしたから文字通りに手探りでした。

だから帰れないんですよ。帰路に向かうのが0時を過ぎたりすることもあってヘロヘロになってたんです」

 

津田「ええー!! それは大変じゃったなあ」

 

村上「もう本当。しんどくて辞めました。こんな事があるんだって思いましたよ」

 

 

野田→村上「当時は専門学校を出たばかりで20歳そこそこですよね?」

 

村上「違うんです。専門学校出て直ぐには、少し飲食店で働きました。24歳? 25歳? そこから特養へ入りました。募集の案内を見ると全室個室ということで良い印象を持ったんです。

でも、入職してみると、エッ!? わけ分からない状況でした。で、2階3階4階とフロアがあるんですけど、4階は自立に近い方とショートステイ。そこに、あまり経験がない人たちが集められて……」(津田が咳き込みながら爆笑)

 

津田「そうなん! 自立に近い人ほど大変じゃが」

 

村上「ですよね。だけど、なぜか? 経験が浅いからこそ自立度の高い方へとなってたんですよ。当然、私もです」

 

野田「介護の素人視点で捉えたならば、自立度の高い人の方が介護はしやすい様に思えるんですが?」

 

津田「それは逆で、難しいと思うよ。寝たきりの人だったら、ある意味、自分のペースでできるというか、流れに乗っていけば特に問題は起こらないでしょ。だけど、自分の意思がしっかりしてる人は難しいよね。しかも、特養に入りたくって来てるわけじゃないんもんね」

 

野田「そうなんですね。納得です」

|在宅とは 独り暮らしを貫く

津田「そういう経験もあるから、ここに来たら在宅っていうのが『嗚呼! こういうことなんだ』って腑に落ちるんじゃない? 

皆、よく言うもんな。『この人は、誰々さんは施設じゃないよな』とかね。Tさんとかがそうだよね」

 

村上「です です」

 

津田「私、凄いな! と思った。Tさんは、皆が諦めると思ったんよ」

 

村上「ここのGHへ入ってもらうからということですか?」

 

津田「だって家はボロボロだし、本人は重たいし、訪ねてみたらどんなになってるか見当もつかないし、心配なことばかりでGHに入ってくれた方がケアする方はよっぽど楽だから。

 

もう『ここのGHに入りましょう』っていう結論を出すかもしれないって思ったけど、皆が凄かったのは、ちゃんとTさんの声を聞いてくれて、それもTさんと一緒に考えてくれた」

 

野田「それは、TさんにここのGHへ入居してもらおうということで進んでいた?」

 

津田「家族はそれを希望してたんよ。だけど、本人は家での独り暮らしを貫きたくて頑として譲らないわけ。以前、ここに泊まったときも『帰る 帰る』でストライキ状態。食事も拒否。とはいえ、これからが大変じゃけどな」(津田 村上 2人してケラケラケラ)

 

 

@この流れから少し分かりづらいかもしれないが、Tさんの、我が家で生活したいという願望を、職員たち皆で支え実践しているということを記している。


|Tさんのこれから

津田「これから、どうなっていくのかな? というのは皆も予想は付いているはずなんよ。益々、大変になるということが。でも、それでも在宅支援を選んでくれたということは凄いなあ! って」

 

村上「やはり、入りたくないのに入っても馴染めないだろうし、帰宅願望も益々と強くなって、私たちもTさんとやりとりするのがシンドクなりますね。『ここが、これからは家だよ』と言うのも嫌だし、違いますよね?」

 

津田「違うよなあ」

 

村上「納得して入ってくれるんなら良いけど、精神的にストレスですよ」

 

津田「無理やりさせるとか、説き伏せるとか、そういうんじゃなくてな」

 

野田「Tさんは、今、自宅からここの小多機へ通ってるんですか?」

 

津田「いっとき慣れてもらおうと思って通いを増やしたけど、もう必要ない状況になってる。幸せだよTさん。他のところだったらこんな結果にはならない」

 

村上「直ぐに入所」

 

津田「ほんと、直ぐよな」

 

野田「素人考えですが、そんな過激な人をGHに入れたら職員さんも激しく大変じゃないですか?」

 

津田「1日に5回も6回も訪問に行って、しかも2人掛かりで訪問するんですよ」

 

野田「ええっ!! そこまでやるんですか、ここは。そりゃ半端ないですね」

 

津田「支え切るからね、ここの人は。看取りまで」

|社長への要望

野田→村上「さてと、社長に要望はないんですか? ああして欲しい・こうして欲しいとか?」

 

村上「ワッハッハッハ 職員を増やして欲しいです」

 

津田「だよね。私も切に願ってるんよ」

 

村上「入って欲しい。来月からでも」

 

 

野田→村上「やっぱ、キツイですか?」

 

村上「キツイです」

 

津田「残業したりとか、休日出勤するとか、そんなのはないけど、職員1人当たりの責任も動きも増えるから。

当然、行動範囲も広がるし」

 

村上「そうなんですよ。あっち行ったりこっち行ったりで」

 

 

野田→村上

「で、そんな現場事情の最中にいて『もう限界かなあ?』とか思いません? 『他所に行ったら楽できるかなあ?』とか」

 

村上「他所に行ったら行ったで覚えられるんかなあ? って」

 

津田「でも、他所のしんどさも経験してるからね」

 

村上「そっちに踏み出すより、今の慣れているここの方がベターですよ。否、ベストです」

 

津田「そりゃあ、特養に行けば特養のしんどさがあるし。ここが今、シンドイとはいっても……違うよなあ」

 

村上「今はシンドイけど、ズットじゃないから。利用者さんによっても変わってくるし、職員によっても変わってくるし、で」

 

 

野田→村上「とはいえ、10年もここに勤続していると人間関係で悩むということはないですね?」

 

村上「新しい所に行けば人間関係で悩むでしょうけど、ここでは言いたいことを言わせてもらってるので大丈夫です」

 

 

野田→村上「お局?」(津田 村上 ギャハハーと炸裂)

 

村上「そんなんじゃないですよ。だけど、そのストレスは皆無ですね」

|Instagram

野田→村上「つかぬことをお伺いしますが、お子さんは?」

 

村上「結婚していません。独身です」

 

 

野田→村上「インスタで募集中って狼煙を上げたら良いんじゃないですか? 使い勝手ありますよ。見てる人、閲覧してる人は世界中からですから」

 

津田「そういえば、“ぶどうの家”のホームページ内にあるこの企画についても『面白いなあ!』と言ってくれる人が少しづつだけど増えてるんよ。私は話話してるだけだから、どこが? って思うんだけど、威力はあるみたいよ」

|本家の面白さ

津田「ここの面白さってどうかなあ? いろんな施設を経験したことと比較してみても」

 

村上「なにかなあ?」

 

 

野田→村上「気楽さ、とかあるんじゃないですか? 例えば、介護は好きじゃないけど生活のために嫌々やっている人も少なくない現状を私は知ってます。

だけど、本家で働いて村上さんは楽しんでるでしょ。勤務に向けて自宅を出るとき『ああ嫌だ。今日も仕事かあ!』なんてないですよね?」

 

村上「楽しいです、それは。『“行きたくないけど”生活のために行くしかない』は全くありませんね。生活のためではありますけど」

 

津田「そうなる前に相談してよ。いろいろあるのは何処もだけど、ここは利用者さんが面白いよ。茶化すんじゃなくて本当に楽しい。

 

でも、利用者さんから楽しさを引き出してるのはここのスタッフじゃけんな。それは、とても良い関係性が生まれ育ってるからなんだよね。

もしかしたら“あの人”も他の施設へ行くと問題老人として大変なことになってたかもしれんな?

 

 『お薬を盛られそうじゃな?』 みたいな人たちもイッパイいるけど、でも個々の利用者さんは、素の自分自身をバンバン出せる場になってるから、それを見て、皆が面白いんだと思う」

 

村上「確かに、そうなのかもしれませんね」

|帰宅すると実母の介護

津田「村上さんは、お母さんの介護をしながら働かれてます」

 

村上「10年ほど前に脳出血で倒れたんです。そこから車椅子です。杖でも頑張ってたんですけどね」

 

野田「ということは、この後に帰宅されたらお母さんの介護?」

 

村上「お風呂入れたりします」

 

野田「そりゃキツイ! 大変ですね。だけど、自分の母親を介護するのと他人様を介護するのでは気持ちの部分で異なりませんか?」

 

村上「違いますけど、母はまだ認知症とかはなくて、身体が不自由なだけで人間としても母としてもシッカリしているんです。なので、意思疎通は以前のままだから特別な苦はありません」

 

野田「お母さんが村上さんを拒否されることはないんですね」

 

津田「シッカリされてるもんな」

 

村上「私が仕事から帰ると母が気を使うんです。『疲れてるじゃろうから今日はお風呂入らんでいいよ』って」

 

津田「優しいよなあ」

 

野田「といこうことは、勤務後に友人と飲みに行くなんて難しいですね?」

 

村上「飲みに行くとか飲み会には基本的に出ません。遊びに出るのは昼。夜は母の介護。このルーティンでやってます」

 

津田「でもな、夜勤もちゃんとやってくれるし、そこは本当に助かってるんよ。夜勤できるかできないか? で、人手不足のここの現状も大きく変わるから。お母さん、理解あるよなあ!」

 

村上「身体は不自由だけど、母と父で料理はやるんです。だから、在宅介護をしてるといっても大袈裟なもんじゃありません。母もまだ72歳ですから」

 

野田「じゃあ、そんな現場の主導権を握ってるのは村上さん? お父さん?」

 

村上「私? やはり母のような気がします。本当にシッカリしてますから」

最後に

 

マスクを、するしないで出足は少々の不安を覚えたが杞憂だった。しかし、やはり“人生いろいろ”を納得させられる今回でもあった。そんな今回は津田の言葉で締め括りたい。

 

 「いろんな事情を持ちながら職員さんは働いてるもんね。子供が小さい人もいるし、皆、ちょっとづつちょっとづつ頑張りながら、ちょっとづつカバーし合いながら働いてるんだから」