[第8回]

住宅型有料老人ホームぶどうの家花帽子介護              職員・福本彩(37歳)


ー2025年7月31日ー

はじめに

 

福本は介護福祉士。2人の子の母親である。
この企画“ふかぼり”で、社長の津田が求めていた「普段はあまり会話することもない職員とジックリ顔を付き合わせて話したい」との基本コンセプトにピッタリの場面となった。
もっとも、今後の対話は一般職員が大勢を占めることになるのだけれど、どう展開していくのか興味深い。

津田「福本さんには花帽子で働いてもらってるんだけど、今、幾つになるんかな?」

 

福本「37歳になります」

 

津田「で、元々は駄菓子屋(訪看 天使のおくりものに併設されている)で募集を出して、駄菓子屋の店員さんで来てくれました。その頃、まだ子供が小さかったんよね?」

 

福本「そうなんです。下の子が1歳でしたから。働く時間帯もちょうど良くて」

 

津田「でも介護福祉士を持ってたんよな。それで、せっかく介護福祉士の資格があるなら花帽子の方で働いてみたら? ということで介護職へ。勤務時間も段々に延びて、今は短時間正社員で働いている。という流れで良いのかな?」

 

福本「ハイそうです」

 

 

 

@ここで細やかな一悶着。
福本が勤務体制時同様にマスクをしているので私から外してもらうようお願い。
すると、「えっ? 汗かいてるから恥ずかしいーー!」 キャー!! との雄叫びは上がらなかったけれど、
津田からもお願いしてもらい一件落着。
確かに、この日は梅雨が始まったばかりではあったものの気温は35度近くに上昇し真夏ど真ん中の陽気だった。

 


津田「さてと、介護福祉士を取得したのは、なぜ?」

 

福本「前の職場が福祉施設だったんですけど、元々は事務でした。大学での専攻が医療秘書学科で事務を学んでましたから。
で、介護の事務で最初はやろうかなと考えてたんですが、福祉施設のオープニングスタッフとして配属されて、いろんな課を全部廻るんです。で、事務をやっていながら『私に事務は向いていないんじゃないか?』と思うようになったんです。

緊張感でストレスは溜まるし肩凝りは半端じゃなかったです。
自分自身の体と相談してみても事務は合ってない。体を動かしてる方が自分には合ってる。との結論に至りました。
で、昔から祖父母が大好きで、おばあちゃん子でしたから、そこが介護福祉士を目指した根っこのような気がします」

 

津田「じゃあ、この世界に向いてるね」


福本「どうなんですかねえ? 向き不向きを自分では分かりませんが、楽しいことは間違いありません」

 

 

津田「花帽子に入って、ここは有料とヘルパーで支えるということからヘルパーもやってもらってるんだけど、ここで働いてみてどうかな? 最初はお風呂だけだったんよな?」

 

 

福本「いえ、入浴専門ではなかったですよ。仕事に慣れるまでは入浴介助はしないで他のことをやらせてもらってました。介護全般ですけど、花帽子に入るまでは重度の人の介護というのを経験してこなかったんです。なので、先ずはとても勉強になりましたね。花帽子に来る前の施設は、体は元気だけど認知症がある人という利用者さんが多くて、リハパンを履いてる人ばかりでした。だから、オムツ交換との経験がなくて花帽子に来てから少しずつ覚えてきたんです。勉強になりました」

 

 

津田「スキルアップしていったんじゃ」

 

 

福本「ハイ。随分スキルアップできたと感じてます」

 

 

津田「何年になる? ここに来て」

 

 

 

福本「何年だろう? 下の子が保育園に預かってもらってからだから5年ほどですかね。駄菓子屋含めるともう少し増えますけど」



 

津田「私から見てると福本さん、すごく進歩してるなあ! と思うんよ。最初は手探りだったと思うけど、でも、花見企画をしてくれたりね。凄いよ! パートなんだし、そこまで率先する必要ないんだから」

 

福本「そうですね。立場上、出過ぎるのは良くないんじゃないかな? ということもあったし、声を出しずらかったですね。こういうのは皆の協力なくして実行・実践できないですから。だけど、今回は皆が協力してくれたんでやって良かったなと凄く思いました」

 

津田「利用者さんにとっても良かったし、職員にとっても良かった。準備の段階から皆で協力して、いろいろ考えて、段階を踏んでということも良かった」

 

福本「でも、私の場合は人に頼むのが苦手で、結構、自分でやっちゃうみたいなところもあるんです。なんで、そこはもっと皆に頼っていけたら良かったかなあ? という反省もあるんです」

 

津田「そうかー。そんな福本さんが『やりたい!』と手を挙げ声出しするのも勇気がいっただろうなと?」

 

福本「ですね。元来、引っ込み思案というか、あまり外に出るタイプじゃないので思案は結構しました」

 

津田「なんか切っ掛けはあったんだ? 企画について」

 

福本「山本さんが入ってきたじゃないですか。一緒にやろうって言ってくれたんです。これが大きかったです。仲間がいる。強力でした。1人では踏み出せなかったですから」

 

津田「確かにね。想いが同じ人がいる。これは大きいなあ!」

 

福本「今までは花見企画なんかを言い出せる雰囲気でもないし、誰も言ってこないし、という状況でした。人数的にも難しいのかな? と自分の中で勝手に決め込んでた部分もありましたし」

 

津田「そんな企画出しても無理だろう? みたいにね。でも、そこから進んで、今度は本家と合同のバーベキューもやったり。これも凄いよ」

 

福本「大変でしたけど、利用者さんは喜んでくれてたので良かったです。ただ、やはり行事のときは人員が足りてないと難しいです。楽しむのはもちろんですが、安全第一は欠かせません。今後は、この辺りをシッカリ考慮して企画を進めたいと予定してます」

 

津田「まあ、そうは言っても、人員を確保するというのは上の務めじゃからな!」

 

福本「そうなんですよね。言ってはいたんですけど難しかったみたいで。
5月、急に決まったんですよ。6月になると暑くなるからということで」

 

津田「でも、それをちゃんとやろうという風に、思ってくれるようになったということが凄いなあ! 
しかもそれを、花帽子の中でこじんまりと終わらせるんじゃなくて『本家も一緒にやろうや』となったところが私は本当に嬉しかったなあ」

福本「本家さんとですね」

 

津田「そうそう。あれは、なぜ?」

 

福本「あれはですね。武田さんが言って下さったんだと思います。『本家もやりたい』という案が出てて、それで合致したというのが実情だったはずです」

 

津田「あの後ね、花帽子のスタッフも『こんちはー』とか言って本家に入って

くることも合ってね、あんなの今までだったら出来ないよね」

 

福本「出来ない。出来ないですよ。だから、打ち合わせで何回か本家に行ったんですが、雰囲気とかも、以外と入りやすいんだと感じたりもしたんです。やはりですね、本家は花帽子とは違うところ、みたいにイメージがありましたから。今後、入るのに抵抗も薄れ、少しは気楽になるように思います」

 

津田「それ。それは本当に良かった」



福本「本家の職員さんを全く知らなかったんですけど、ちょっと仲良くなれましたしから。これは良かったと思います」

 

津田「そうだよね。顔も知らないのに『助け合おう』『一緒にやろう』と言っても無理だよね。ましてや、利用者さんの顔も名前も分からない状況で助けるも何も無理よ。日頃から交流があれば事情は全く違ってくるじゃない。助けるも実践できる」

 

福本「そのとおりですね」

 

津田「先日の避難訓練も協力し合えて。これからも、もっともっと知り合おうとなったんよ。だから、福本さんの先駆けがあってだから、これからも率先してドンドンやって欲しいんよ。上がどう思うか? 反応するかは未知数だけど、下からガンガンひっかき回して欲しい」

 

 

@途中経過。爆笑とかの語彙を絡ませてないが、和やかな雰囲気の下でインタビューは進んでいる。

もちろん爆笑モードもある。

 

 

福本「一緒にやってくれる人がいたら頑張ってやろうと考えてます」

 

津田「『『あれやろう』『これやろう』ってガチャガチャやってくれたら嬉しいなあ!」

 

福本「頭抱えますよ? 倉本さんとか。でも、倉本さんはやりたい派ですから下からの意見は嬉しいはずです」

 

津田「だからね、皆から意見が届けば上も頑張る。頑張るでしょ」

 

福本「でしょうね」

 

津田「そんなこんなでね、今、花帽子がとても良い雰囲気。この調子で邁進して欲しいんよなあ!」

 

福本「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

                                              

 

津田「ところで、福本さんは私に注文みたいなことはない?」

 

福本「注文とか不満はないです。けど、今の状況になって動ける時間というのが限られてきてるので、行事とかを使うなら、ガチッとちゃんとできるようにはしたいんですけど、難しいのかなあ?」

 

津田「否、難しくないよ。そういう風に現場が思ってくれるようになったらチャンスだと思ってる。このステップを踏まないと次に進めないから、皆がそういう声を上げてくれると嬉しい」

 

福本「ヘルパーに入る時間というのが、個人的に何時~何時までこの人に入らなければならないっていうのが決まってて、それが毎日決まってるわけです。だけど、動ける時間は限られてます」

 

津田「ヘルパーに入れる時間ということね。それは、ヘルパーも利用者さんも両者ね。なので、自由に動けない」

 

福本「自由に動けない状況下で、その間でなにかしようとしても自分は空いてるけど他の人が空いてないみたいな状況だったりもするんです。全員が集まることは難しいんです」

 

@野田は状況把握が難しいので改めて説明を求めた。

福本「ヘルパーでない時間は花帽子の職員としてフリーで動けます」

 

津田「でも、そうやって初めていろいろ見えてきたり理解できたりすることがあると思うんです。やらないと分からない。とことんやって初めて理解できるから『ああだこうだ』と文句を言う前にやってって言う。私は原君や倉本くんに強く言った」

 

津田「『合同で一緒にやろうよ』『もっと皆で楽しいことやりたいよ』みたいに想いが高まり盛り上がったけど、今は出来ない現状にあるんだよ、ということを上司に上げてくれたら嬉しい。そうすると次に進めるから。現場が分かって皆で理解して、それを前提で進まないと難しい」

 

福本「そうですね。でも、大きな行事がありますね。“祭り”とか? 旅行? となると、それをするとなると動かすことになりますね」

 

津田「それはケアマネさんとかと相談してプランの書き換えとかね。それは倉本君がやってくれると思うけど、そういう細かい調整をしながらね」


 

野田→福本「この企画のトップバッターだった武田さんの組織論。
トップに津田さん。次に武田さん。そして管理者。そういうピラミッドが形成されてますが、福本さんが企画を上申するとき、先ずは誰に上げるんですか?」

 

福本「リーダーの倉本さんか管理者の原さんですね。ここで承認がもらえないとアウトです。
で、組織論ですが、私が聞いてるところでは津田さん以外は皆が同列と」

 

野田「やっぱり。津田さんが凄すぎるんだよなあ!」

 

津田「そうはいっても、皆の頑張りと踏ん張りで“ぶどうの家”の今があるからな。どんどんドンドン“ぶどうの家”が良くなっていくのが嬉しくて仕方ないんよ、私」

(補足:ピラミッド状に組織があるのではなく、津田以下は横一列だが、それぞれの役職やポジションによって権限と決定権の領域の幅が違う。野田さんの認識違いで、福本さんの認識が正解です。武田)

 

 

 

野田→福本「大きく話題を変えます。ここで働いてて良かったってことは?」

 

福本「私、パートで働いてたときは時間帯的にすごく融通を効かせてもらってました。
子供がいると、学校行事とかでイレギュラーで休むことも少なくないですから。
で、時間帯なんかも自分で決められるんです。そんな融通が効く所を他に知りません。
2ヶ月前から短時間正社員で勤務に入ってますけど、子供が小さいときは熱が出たり頻繁でしたからパート勤務は助かりました。上の子が4年生。下の子が1年生」

津田「大きくなった。家族の状況で働き方も変わっていくよね」

 

野田→福本「何年目になられるんですか?」

 

福本「5年目です。最初、保育園があったのも助かりました。下の子が1歳で、直ぐそこに保育園があるっていうのは母親としても安心です」

 

津田「そうよなあ! なんかあれば病児保育もあるし」

 

福本「そうなんですよ。病気になっても診てくれますから。使う使わないは別として、普段から安心感は半端ないですよ。お金は少し払いますけど」

 

野田→福本「了解です。立ち入りますが、施設内での人間関係は? 介護施設と言わず、人間社会では普遍的に抱える問題ですが」

 

福本「ウーム? どうなんでしょう? 私自身は皆さんとても良くしてくれるので、問題意識も悩みも抱えていません。働きやすいです」

 

野田「武田さんなんか厳しいでしょ?」

 

福本「その見方はどうなんでしょう? 武田さんは、人を褒めて伸ばすタイプだと認識してますけど。褒め上手ですよ」

 

野田→福本「さて、最後です。津田さんに対して、会社に向けて、要望とか不満があれば言い切ってください」

 

福本「そんなのはありありません。“ぶどうの家”に感謝しています。ただ、強いて言えばですね、行事をやるなら、せっかくやるんだから、ちゃんとやりたいんです。それには人員が不可欠です。安全に楽しむために。で、ハイエースです。維持費は大変ですが、ハイエースが欲しいです。大勢でどこでも行けます。『ハイエースが欲しい』が会社への要望です」


最後に

一般介護職員として、なかなか言いづらいことも多かったと思う。私も立場が逆ならプレッシャー極まりない。
でも、和やかに時空は過ぎていき楽しい時間だった。

福本同様、“ぶどうの家”に勤務する女性陣が一様に言う。

「保育園があったからこそ」。


第2回登場の看護部長・鈴木真由美の戦略は大当たりだった。