ー2025年5月26日ー
はじめに
為藤は、この連載第2回で登場してもらった鈴木真由美の直近の部下になる。
同じ事業所内で勤務しているが、鈴木は看護部長の位置にあり為藤は管理者。名刺には、保健師・看護師・介護支援専門員の肩書も連なっている。立場上、なかなか語りづらいこともあることを承知でインタビューに応じてもらった。
「雉も鳴かずば撃たれまい」
の例えもあるが、そこを敢えて、無理を承知で為藤に挑んでみた。
もっともこの企画、これからも上司・部下という立ち位置に関係なく掘り起こしていく予定なので筆者(野田明宏)も怯んではいられない。
で、世間話をしつつ、いつもどおりに津田の質問(インタビュー)は始まった。
津田「この企画。過去のインタビューは読んでもらったよね?」
為藤「はい。読ませてもらいました」
津田「例えばね、私に言いたいことがあるとか? 会社への不満とか? なんでもオープンに話してもらって良い企画なんだよね。なにかあるかなあ?」
為藤「津田さんに言いたいことがあるとか? 会社への不満ですか? 私はありません。特に、ここで記事になるようなことは持ち合わせていないです」(大笑いしながら)
津田「そうなんだ。でも確かに、ここに掲載されることを承知しながら敢えて言語化する、表面化させるということは難しいよね」
為藤「私、一応は訪問看護ステーションの管理者ですけど、看護部長の鈴木さんが保育園をやりたいということから引き受けたんですよ。保育園の園長とステーションの管理者を並行してはできないということから依頼され引き受けました」
津田「子育てして、できればパートで、気楽にやりたいよね! って思ってるところにきての、依頼だった?」
為藤「パートではなかったですよ。短時間正社員です。3人目を産んで復帰して、その頃に鈴木さんが保育園をやりたいと思ってて、こんな風に言われたんですよ。『園長になるのと並行して管理者はできないから、為藤さん管理者やってくれる?』って」
津田「鈴木さんが無理を言えるのは為藤さんなんだよね。鈴木さんの想いを汲んでやってくれてるのが為藤さんだし。みたいな感じだよね」
野田→為藤
「ところで、初耳なんですが“短時間正社員”ってどんな形態なんですか?」
為藤「働きやすいですよ。普通であれば週に40時間勤務なのが32時間勤務で良いということなので働きやすいことは間違いないです。だから、私はこのステーションを選択し職員になりました。
それと、1日必ず8時間労働ということもありません。例えば週に3日、極端ですが、10時間 10時間 12時間 と働けることもできます。
遠距離の旅行に行きたい! なんてときに融通が効きます。他スタッフとの折り合いもありますが、子供たちの行事などを見計らって勤務時間を整えられるのが大きな魅力です。もちろん、6時間労働を中心に32時間でも構いません」
野田「初めて聞きました。他でも一般的なんですか?」
為藤「ご近所ではあまり聞きませんね。都会の方では“短時間正社員制度”があって、それを、鈴木さんがここに導入されたんじゃないですかね? 『働きやすいように導入したい』ということで!」
津田「鈴木さんは、やり手ですよ!」
為藤「そう、鈴木さんは文字通りにやり手なんですよ。なので、私は鈴木さんについて行ってるだけなんです」
津田「皆、私のことを“やり手の社長”って言うけど、私より鈴木さんの方がやり手よね」(2人で大笑い)
為藤「でも、津田さんあっての鈴木さんで、やりたい事が実現できていってると思いますよ。鈴木さん『自分が社長なら絶対にしない』って言ってますもん」
野田「話は逸れますが、3人お子さんいらっしゃるんですね?」
為藤「中3 小6 そして小学3年生です」
野田「ここ、子育て支援のような制度はあるんですか?」
為藤「休めますよ。例えば『参観日があるので2時間ほど抜けます』とかね」
津田「やはり、そういうのは最優先しています。で、その辺は各部署の管理者に任せてるので、管理者が、この人が働き続けるにはこういう手法が良いとなれば、それをやれるような体制は整えています」
@オブラートに包まれたような会話が続き、なかなか本質的な核の部分に突入できないでいたが、そろそろ津田が為藤に迫りつつあるような雰囲気が出てきた。
津田「今、為藤さんは鈴木さんがいての管理者。とは言っても、鈴木さんが色々やってくれて、ある意味、為藤さんの盾になってる。ところも大いにあろうな? とは想像するし、だからやれてるっていうのもあるんだろうし? で、その鈴木さんの盾を越えて行こう! みたいなのはある? 盾は盾でありがたいけど、そろそろ私も頑張る! みたいな」
為藤「気持ちはあるんです。ただ、どう越えていったら良いのかなあ?って」
津田「なるほどね」
為藤「気持ちというか?なんなんでしょうね?」
津田「管理者になって、もう何年が経った?」
為藤「7年くらいですかね? だけど、やはり鈴木さんあっての、ってところがあって…甘えですかね? 実際、メッチャ甘えてますよね!」
津田「それが当たり前になってんのかなあ? 最初は甘えで、助けてもらえて、だからやれてるってところは大いにあっただろうね。子供も小ちゃかったし」
為藤「どういう風に越えていけば良いんでしょう?」
津田「私、為藤さんは越えたくないのかな?って思ってたんよ」
為藤「どうすれば越えられるのかなあ? とは思いますけどね……」
津田「大きな器の人だから越えるっていうのは無理なんだけどね」
為藤「そうなんですよね。だけど、どうやったら越えられるんですかね? 越えるというより、なんて言うのかなあ? もっと積極的にやっていかなければいけない、とは常々思ってはいるんですけど… 甘えてるだけなんでしょうね、きっと!」
津田「もう少し任せてもらえる部分を増やしていきたい、とは思う?」
為藤「ウーム? 今でさえ、どこを任されているのかも分からないですけど…」
津田「オオオオオオオーー」(少々、津田は驚きの様子)
為藤「なんて言ったら良いんですかね? 鈴木さんがいるからやっていけてます。なんですが、表現が難しいなあ! でも、鈴木さんがいなくなったら本当に困ります」
津田「例えば、鈴木さんが3ヶ月休みます。となったら?」
為藤「言いますよ。『休んでください』って言いますよ」
津田「OK。でも、そうなったときに何が困る?」
為藤「何が困るか? 訪問そのものは廻せると思います。でも、上手く表現できませんがメッチャ困りますよ」
津田「私のイメージだと、為藤さんは管理者というよりも責任者? 鈴木さんが管理者で!」(微妙に、内容が分かりづらく内容把握が難しい)
為藤「そういう感じはします。確かに、管理者らしいことはしてませんが、社内で管理者の会があれば参加します。とはいえ、なぜ? 参加してるのかなあ? とも考えます。名ばかり管理者なんでしょうね。どう変えていったら良いのか? “分からない”というのが実情です」
津田「でも、そうやって思い悩んでるってことは、そろそろ出来る時期なんかもしれんね。本来の管理者を!」
為藤「本来の管理者って、分かってないんですよね私は。鈴木さんがいなくなったら本当に困ります」
津田「だけど、管理業務って厄介よね本当に! 時間の中でお金にならないことをやってる事が大半で。例えば、スタッフの不満とか要望を聞くとかね。で、聞いて、それをそのまま上に送るんじゃなくて、それを整理整頓して、これは自分が判断して本人に返事しよう。これは、ステーションの意見として上にあげていこうとかね。あるいは他の部署と調整が必要だから相談に行こうとか」
為藤「そういうところは鈴木さんに任せてますね。リーダー会議にしても保育園とステーションの代表として鈴木さんが出るので、訪問が回らなかったりするときもあります。ステーションってスタッフが少ないから。なので、正直、モヤっとするときもあるんです。だから『私、管理者だけど名前だけなんかな? 名ばかり管理者なんかな?』って思ってしまうことは確かにあります。リーダー会議に出ることもなく。なので、管理者としての自覚が希薄なのかもしれません。言い訳ですけど」
津田「名ばかり管理者かあ? でも、良い時期なんじゃないかなあ! リーダー会議にしても、鈴木さんは看護部長としての参加。という風になれば自ずと為藤さんはリーダーとして参加。でも、本格的に管理者の役割を担うようになると少しキツイかもね!」
為藤「実は私、考えたりするのが苦手なんですよ。本当は、毎日が決められた中で淡々とこなして行きたい。そして、生きたいタイプなんです。だけど、管理者って全く異なるじゃないですか。そういう辺りが微妙に! 訪看って楽しいんですけれどね」
津田「だけど、そうやって自問自答してるってことは、管理者としての自覚が今まで以上に芽生え始めたってことじゃないん?」
為藤「うーーん どうなんでしょう?」
津田「モヤモヤするっていうことは、自覚がそうさせてるんじゃないの?」
為藤「やはり、管理者としての役割を与えられてるんだから、正しい管理者として動きたいという気持ちはあるし、そうならなければならない、という気持ちもあります。とはいえ、じゃあ自分が何をしたら良いのか? という苦しい実情もあるんです」
津田「なんか、扉が開き始めてるなあ!」
為藤「開きますかねえ? でも、鈴木さんという大きな“鈴木山”があって乗り越えられるかなあ?」
津田「乗り越えなくても良いんよ。鈴木さんは常に身近にいてくれて、ドカーーンと存在し相談相手になってくれれば。で、彼女が看護部長としていれば、ステーションは看護部長の下にあるわけだから」
為藤「だけど、多分、鈴木さんもステーションを背負ってるって気持ちが、まだまだ大きいんだと感じてます。ご自身で立ち上げてるわけですから。なので、私も鈴木さんに守られてる感は半端ないですね」
津田「でも多分、そこが葛藤なんじゃない? 鈴木さんが発言をすると、ステーションの味方をしているように見られたり思われたり。だけど、本当はそうじゃなくて看護という大きな視点で見て、言ってるにも関わらず『そりゃあステーションの人だからそんな風に言うんよ』という具合に思われてしまいがちだったりとか? 悲しいかな、大勢からね。そんな風に私は捉えてる」
為藤「じゃあ、私がもっと発言していかないといけないってことですね。訪看としての意見は私が言って、“ぶどうの家”の看護師全体の取りまとめは看護部長の鈴木さんが率先して行う、という具合に!」
津田「いいね! それが出来たら。鈴木さんがいてくれて、為藤さんがいてくれて、あと施設の部門があって、それらがガッチリ繋がってくれたら凄く良いなあ!」
為藤「確かに素敵ですね!」
津田「今、看護師さんたちの話し合い。ミーティングとかね。看護師さん同士は上手くいってる? 施設の看護師さん、ステーション、真備。でも、利用者さんが多いから全ての人を把握できんよなあ? 私の理想としては、看護が全体をマルっと見れて・看れるというのが理想なんよね」
為藤「看護師同士は上手くいってます。大丈夫です」
@為藤管理者と鈴木看護部長。良い関係にあるのだろうなあ!
と想像できる津田と為藤の質疑応答になったが、鈴木には欠席裁判の様相で申し訳ないとも思う。
とはいえ、もう少し深掘りできたらなあ? と反省もあるが、ま、致し方ない。
野田→為藤 単純な質問です。訪問看護の楽しさ・やりがいを教えて下さい。
為藤「病院って、皆さん治療しに来てるじゃないですか。患者さんは、皆さんそれぞれ個性があって異なった人格ばかりなんですが、看護師として行うことは日々ほとんど同じことの繰り返しなんですよ。あっ! 私は以前、都心部の中核病院で10年ほど勤務していました。だけど在宅って、人それぞれ異なるんです。同じ疾患であっても違う。生活の中に私たちがお邪魔させていただいている。という感覚が、言葉を選ばずストレートに表現すると、楽しいんです。興味深くもありますね」
津田「元々、訪問看護がやりたかった?」
為藤「いえいえ、それはないんです。ただ、病院勤務の頃“退院支援看護師”という役割に就いたんです。それは、患者さんが自宅に戻ってからどういう生活をしていこうか? ということを皆で相談するわけです。
『どういう家族関係ですか?』『間取りは?』とかですね。
だけど、実際に患者さんのご自宅を訪ねるわけでもなく、やはりそこは良く分からないことばかりなんです。
当時はですね。今は、退院前に訪問することもあるんです。
そんな風にシステム化されてきているようですが、当時は全くありませんでした。
で、私は循環器だったんですけれど『塩分に気をつけてくださいよ』『体重管理も大事ですよ』等々、一通りの指導はするんです。
でも結局、家に帰ってそれを実行・実践しようとしても出来る人は限られています。実践しようにも生活があります。仕事もあるし付き合いもある。机上の空論と例えれば大袈裟ですが、無理を承知での指導になってました。
でも、訪問看護に携わるようになってベースは同じであって『この人の生活だと何が出来るか?』『どこが難しいのか?』っていうのが直視できます。
となると当然、“ああしよう” “こうしよう”と対策を練り、患者さんにとってのより良い方向性も炙り出されてくるじゃないですか。そんな、なんやかんやが、一緒に患者さんと生活や悩みを共有しながらの訪問看護の現場がやりがいであり醍醐味ですかね。それを“楽しい”と表現すると語弊が生まれるかもしれませんけど?
そうそう。各家庭にお邪魔して強く感じるのは、家々それぞれに独自のルールがあって“掟”のようなモノが存在すること。いろいろ驚くことばかりですが、病院勤務では経験できないことばかりです。
あっ! “患者さんと一緒に楽しんでいる”という表現が、私には一番ベストな気がします」
津田「だけど、ステーションごとに色があるよね。利用者さんと一緒に考えよう、を優先している所もあれば、指導を優先する所もある。それは、いろんなケースと接して思うよなあ!
でも、“ぶどうの家”の場合は、一緒に考えて生活面から入ってくれてるなあ! って」
野田→為藤
「訪問時、利用者さんと一緒に考えてて、これは楽しかったなあ! という一例があれば教えて下さい」
為藤
「例えば、お孫さんが来ています。普段であればバイタルを計測してその後もやることは決まってるんですがね。
とはいえお孫さんがいます。
『今日はお孫さん来てるから一緒に散歩に出よう』ってお孫さんの力を借りるわけです。
普段であれば『私は外には行きません』と言う利用者さんもお孫さんとなら出る方も少なくないです。すると、普段では見られない、とても和やかで嬉しそうな表情になられます。
こんなときですね。“楽しい”はもちろん、訪問看護師としての“歓び”を感じるのは」
最後に
深掘りをしようとする。つまり、なるべく本音を曝け出してもらおうとする。しかし、なかなか難しい。当たり前の話だけれど、人間関係の不和を招くような発言を常識と良識を持ち合わせていれば誰でも避ける。SNSでの仮面を被っての声出しではないのだから。とはいえ、今回で5人の方々に登場してもらったのだけれど、各人それぞれに個性溢れ、
「嗚呼! こんな人たち、こんな職員さんたちが“ぶどうの家”を背負っているんだなあ! ということだけは理解してもらえる内容にはなっていると確信する。自己満足かもしれないが、“自分で良し”とできない内容を公にはできない。
改めて記すと、為藤直美は訪看・天使のおくりもの管理者。鈴木真由美が看護部長として直近上司。為藤も言葉を選びながら津田に応えていたはず。ストレスと遭遇したかもしれない? 仲良しそうだからそれはないのかもしれない? いろいろ思考する。
次の第6回も管理者の登場。その後は一般職員への深掘りとなるのだが、どこまで本音を引き出せるか?
そんな課題を想像しながら今回は終わりとします。