ー2025年11月20日ー
はじめに
対談前、「恥ずかしいから」とのことでマスク着用を訴えた井上。そこをなんとかマスク無しで応じてもらった。
対談が始まってから井上の年齢が71歳と知り、私は驚いた。とてもその年齢には見えない。還暦前かなあ? くらいに見てしまっていたから。「今が一番元気」と言うだけあって、言葉には張りがあり笑顔は生き生きとしていた。
津田「井上さんです。名前の方は?」
井上「井上由美子です」
野田→井上「すみません。嫌かもしれませんが皆さんにお聞きしてるんで。年齢は?」
@ギャー!! と大声が出たあと大笑いしながら一言。
井上「71歳」
野田「えっ!! 全然、そんなに見えませんね。若い!」(私もビックリしたので大声が出た)
津田「そうでしょ。本当に若いんよ井上さんは。で、ここに来て何年になるかなあ? 4年? 5年?」
井上「そんなにならないですよ。1月に入りましたから、来年の1月で4年になります」
津田「なんか、もっと長くここで働いてもらってる感じなんよなあ。
井上さんは他の老健で働いていて、そこで山形さんたちと一緒に働いていて、その繋がりでここに来たんだろうか? 職安から?」
井上「ドラムが切っ掛けでした」
津田「ドラムかあ!」
井上「BRANCHで教えてもらってたんですよ」
津田「なんでドラムを?」
井上「佐々木さん(“真備福祉介護相談所ぶどうのつる”の職員)がピアノを習っているんですが『なにか由美ちゃんもやってみたら?』って言ってくれたんです。
それで『ドラムだったら武田さん(第1回登場 “ぶどうの家”総合施設長)が教えてくれるよBRANCHで』って聞いて、軽い気持ちで始めたんです」
津田「そこからの繋がりだったんだ」
井上「ハイ。繋がってはいたんですが、武田さんにはドラムだけ教えてもらってたんです。その後、改めて佐々木さんから、本家の方で職員募集してるからと聞いて訪ねたんです。でも、食事の方は苦手なのでスルーしたんです」
津田「『ご飯作りはなあ?』ってことでね」
井上「で、しばらくして“ぶどうの家真備”でも募集があり、誘われて入りました」
津田「そんなご縁だったんですね。ありがとうございます」
井上「やはり、仕事をしていたら体も全く違います」
津田「どう違う?」
井上「以前は動けなかった、と言うか、今は体が動くっていう感じです」
津田「仕事をしていた方が元気でいられる?」
井上「そうです」
津田「ここも?」(爆笑しつつ、自身の頭を指しながら)
井上「ここもね」(井上も自身の頭を指しながら爆笑)
津田「“ぶどうの家”の職員の目標は“気がつけば利用者”」
井上「そうです。もうすぐです」(ギャッハハと大爆笑しつつ手も叩く)
津田「だいぶ近づいて来ましたか?」
井上「ハイ。自覚があります」
@笑い 笑い 笑いの渦の中で対談は進む
津田「でも、それがホントに良いと思ってるから、第何号かな? 何号かになって下さい」
井上「本当にねえ。お世話になります」
野田→井上「途中にすみません。井上さんは昭和28年生まれですか?」
井上「ハイ。この10月で72歳になります」
津田「多分、90歳くらいまではいけるよね?」
井上「いやあ? 私は病気をしてるんで、こんなに長生きできるとは思ってもみませんでした」
津田「でも、今は元気だもんね」
井上「今が一番元気だと思います」
津田「優しい息子さんがいて」
井上「悩みの種なんですけどね」
津田「でも、息子さんは沖縄から帰って来たんでしょ?」
井上「今、キッチンカーでも皆さんにお世話になってます」
津田「良かったです。上手く進んで」
井上「いやいや。上手くいってるとは言えないかなあ? 収入の方がね」
津田「収入かあ? でも、キッチンカーが壊れたと言いながら修理して、騙し騙しで走ってるし、あちこちから来て欲しいという声も掛かってるし。もうバッチリです」
井上「お陰さまで。ありがとうございます。でも、大変ではあるみたいです」
津田「それは大変よね」
井上「だけど、なにも出来ない状態でした。部屋で一日中寝てるって感じでしたから。でも、それが動け出したんで」
津田「手が付けられんかったんよな、自分じゃあ。どうしたら良いのか? でも、息子さんもそこまで元気になれて良かった」
井上「そうです。これ以上、欲は言えません」
津田「凄いよなあ! そりゃあ、お母さんとか周囲の支えもあって」
井上「弟や妹たちが声掛けてくれて」
津田「家族の絆も凄いよなあ!」
井上「人数が多いですから、お陰さまで」
津田「旅行にも一緒に行ってるじゃん。皆、親孝行よなあ」
井上「二番目が、結構良くしてくれます」
野田→井上「お子さんは何人いらっしゃるんですか?」
井上「4人です」
野田「お孫さんも多いですね?」
井上「6人います。だけど、欲しくて欲しくて産んだ子が沖縄に行ってしまって」
津田「そうだったねえ」
井上「3人男の子で、女の子が欲しくて欲しくて産んだ子が。その子が沖縄へ。嫁いで」
野田「嫁いでじゃあ、しょうがないなあ!」
井上「ショックで!」
津田「男の子ばかり残ってなあ」
井上「ねえ! やはり女の子です」
野田「でも、母親は娘より息子の方が可愛いって?」
津田「可愛いとは違うんよな?」
井上「娘でしょ。息子には嫁がいるから。もちろん息子も可愛いし大切なんですよ。でも、嫁には気遣いが必要だから。気を使いますよ。そういうところがね……」
野田「息子さんお嫁さん、同居なんですか?」
井上「同居はしてないです。いろいろ事情がありまして」
津田「でも、家族皆で一緒には住んではないけど、お母さんのことは気に掛けてくれてて、凄く良い家族なんよ。お母さん、苦労もしたけんな」
野田→井上「話は振り出しに戻るかもしれませんが、しかし、71歳でその若さを保っているのは凄いですね」
井上「体はボロボロなんですよ」
津田「いろいろと大病はしてきてるけど、今はね?」
井上「そうなんです。今がベストです。病気は次々と若い頃にしました」
津田「お母さんが、しんどかったことを子供たちが知ってるからかも知れんね、優しいのは」
井上「お母さんが難しいのは知ってるから」
津田「井上さんは、ここでレクもしてくれるし、歌を歌わせたらピカイチだし」
井上「いやいやいや、とんでもないです」
津田「歌は、なんで上手なんです?」
井上「分かりません……」
津田→野田「だけど、武田さんにドラムを習ってたんですよ」
井上「全然、上達してないんですけどね」
津田「とはいえね、子供たちがお母さんにってドラムを買ってくれたんよね。セットで」
野田→井上「ワンセットって高かったでしょ?」
井上「お値段的には安いやつを」
野田「安いとはいえ、ドラムをワンセットですよ」
井上「本当に安いんですよ。思ったより音が違いました、全く」
津田「BRANCHで本物を叩いてるけんね」
井上「武田さんのドラムと私のドラムじゃあ、音が全然違います」
津田「武田さんのドラムはプロ使用だから」
野田→井上「武田さんって、中学生の頃からドラムをしてたと聞いてますけど、プロ用のドラムを井上さんはスムーズに叩けました?」
井上「叩き方は一緒だけど音が違いますよ」
津田「でも、そうは言っても上達してるもんな」
井上「そうなんですけどね…… 続けたかったんですけど、仕事を始めたらしんどくなって。休んでる頃、何もしてないときに少しお世話になったんで。暇になったら改めてやりたいなあ」
津田「それは簡単。利用者になったら出来るから」
@ハハハハハー 井上が手を叩きながら爆笑。よく笑う。
津田「井上さん、ここは楽しいですか?」
井上「私は楽しいんです」
津田「どんなところが楽しい?」
井上「それこそ利用者さんと会話するんでも、なんて言うのかな? 同じ道?」
津田「やはり、利用者さんと同じ目線で」
井上「他職員さんも、私が少々間違ってもカバーしてくれるし」
津田「そうじゃなあ。間違ったからって、責めるわけじゃ全然ないもんね。お互いにカバーしてやってるし。
逆にちょっとくらい失敗してくれた方がお茶目で良いよね」
井上「しょっちゅう失敗してますけど…… すみません」
津田「面白いよなあ! あれは井上さんかな? 通いじゃないのに利用者さんを連れて来たの?」
井上「ああっ!! あれはかなり以前ですね。Nさんを連れてきました。」
津田「通いの予定日じゃないのに、なぜか? 連れて来てるという」
野田「利用者さんは、そのまま利用日として決行?」
津田「そうそう。利用者さんも、そのままでオッケイということでね。実に面白い。そういう笑える現場というのが凄く良いと思うんよ」
野田「一般論ですけど、それは上司から叱責されますよ」
津田「普通であればね」
井上「だけど、お叱りは全くなく、利用者さん家族も笑って納得してくれましたから」
津田「大笑いじゃもんなあ! 利用者さんもそれで困るわけでもなく」
井上「たまたまでしたけどね」
津田「良いんです。こういうお茶目なところが」
野田→井上「仕事が楽しいのは分かりました。ところで、社長への要望とかお願いはありますか?」
井上「それは、忘れてますよねえ。思ってても直ぐに忘れてしまうんですよ」
津田「思うことはあるんじゃ」
井上「職員としてはないです」
津田「それは、人としてあるということ?」
井上「いえいえ、そういうのではなくて、利用者さんとの関わり方? なんかだったかなあ? いっとき思ってたんですが忘れました。明日くらいには思い出すかもしれません」
津田「井上さん、これからここで、やりたいことなんかある?」
井上「思い浮かびばせんが……」
津田「私は井上さんがこのまま元気で楽しくやってくれたら嬉しいなと思います」
野田→井上「週に何回入られるてるんですか?」
井上「三日です。一日六時間で」
津田「ありがたいんです。こうやって来てくれて」
野田→井上「介護全般をされるんですか?」
井上「うーーんと? どうかな?」
津田「お風呂は入らないけど、訪問は行くよね?」
井上「訪問・送迎は行きます。買い物に利用者さんをお連れしたりとかですね」
津田「ハードな介護じゃなくて」
野田「レクでしたね?」
津田「レクもやるし、買い物に行ったりお出かけしたり」
井上「歳なんで!」
津田「でも、口腔体操とかしてくれるもんな」
井上「しますね。嚥下とかも」
野田「パタカラとかですね」
津田「歌を歌ったり手拍子したり」
野田「井上さんの御箱は何ですか」
井上「民謡系かな? 演歌も」
野田「演歌って、誰のを?」
津田「誰のでも歌えるんよ一緒に」
井上「それこそ昔の。今のお年寄りが好きな昭和の曲。今頃のは無理です」
野田「美空ひばり。島倉千代子とか?」
井上「ですね」
津田「井上さんがここに来て、印象に残ってる利用者さんっている?」
井上「いろんな方がいらっしゃいましたが、Kさん」
津田「Kさんは癌があって、最後はもう家で過ごすって言って、最後の最後まで大好きなパチンコをやって大好きなお酒を飲み続けだったんよな」
井上「そこがこちらの、“ぶどうの家”の良いところで、利用者さんのやりたい事をさせてあげるっていうのが凄いですよ」
津田「最後の最後まで飲んだよな。亡くなる日まで飲んだ。口にモノが入る最後まで飲めた」
井上「手芸とかもやられてました。一緒に作りましたから」
津田「利用者さん皆のやりたいことや望みを、ここのスタッフが皆で、それを叶えられるように頑張ってくれてるからなあ。亡くなる前に私もここで、“ぶどうの家”で“気がつけば利用者”でやりたいことを……
ところで、井上さんは最後までやりたいことって何? Kさんのお酒とパチンコじゃないけど」
井上「手芸。友だちとカラオケも行きたいですね。料理は苦手なんで」
津田「じゃあ、ここの利用者さんとカラオケ行くと良いね」
井上「良いですねー」
津田「井上さんのために!」
「井上さんのために!」で締め括ったけれど、ユーモアと情が混ざり合った対談で今回もスコブル楽しい時間を過ごさせてもらった。常時、笑いが吹き荒れ、井上の人柄が凄く感じられた。楽しい時間をありがとうございました。